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 カザンにしてはめずらしいことだった。なにかをいいかけて口ごもっている。 「……それこそ国家の命運を左右するような一大事があるんだ。日乃元(ひのもと)と国体の未来がかかった案件だ」  カザンが慎重にタツオの表情を値踏みした。 「おまえはほんとうに知らないのか。S計画のことを」  S計画? 聞いたことのない言葉だった。タツオはとっさに横目でジョージの顔を見た。驚きがあらわれている。親友もその言葉を知らないようだった。カザンは吐(は)き捨てるようにいった。 「なにも知らされていないのか。逆島断雄(たつお)、哀れだな。蚊帳(かや)の外でなにも教えられもせずに、この計画の根本に組みこまれている。おまえとおれがいかに皇国の勝敗を左右する貴重な戦力か、聞いたら驚愕(きょうがく)するだろうな。まあ、上の人間がそれでいいというなら、おれからは別に話すこともない。しかし、驚いた。逆島家がそこまでハブられているとは。近衛四家をはずれるというのは、進駐軍として存在しないに等しいんだな。こいつは傑作だ」
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