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 タツオは拳(こぶし)を握り締めた。カザンに飛びかかって、へらへらと薄笑いを浮かべる顔を、思い切り殴(なぐ)りつけてやりたい。唇(くちびる)を噛(か)んで、必死に耐える。 「タツオ、抑えろ」  ジョージが肩に手を置いてくれた。涼しい声でいった。 「東園寺くん、タツオは今日の午後、命をかけて君と闘う。君とは幼馴染みだというじゃないか。その相手に重要な問題をなにも知らせないまま闘わせるのは不公平だろう。『呑龍』をもつ君のほうが、試合だってずっと有利なはずだ。欧米では敗者になにもやるなが一般的でも、わが日乃元は敵に塩を送る高雅な慣習がある。これから敗れ去るかもしれない者に、その理由の一端でも教授するのが、勝者の美徳というものではないか」
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