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カザンは褒(ほ)め殺しに弱かった。こいつは幼いころからコンプレックスが強く、プライドの問題を抱えている。ジョージの謙譲作戦はこの相手には効果的なのだ。それこそ電光のようなコンビネーションよりも危険かもしれない。タツオは憎い敵でも平然ともちあげ奉(たてまつ)る同年の友人に舌を巻いた。
「おまえは優秀だ。やはり、この試合が済んだら、菱川(ひしかわ)は東園寺派にこい。おれがおまえを進駐軍将官にしてやる。東園寺の右腕になれ」
「今日の午後すべてが済んだら考えてみる」
ジョージは深くうなずいて、静かに正面からカザンを見つめた。自分より先に準決勝でカザンと当たるのだが、恐れは微塵(みじん)も感じさせなかった。カザンは感心していう。
「冬獅郎(とうしろう)との試合を見て、おれが怖くないのか。おまえもいかれたやつだな。まあ、いい、その度胸に免じて、ひとつだけ教えてやる。S計画のSは須佐之男(すさのお)だ。あとは自分で調べてみろ」
スサノオ……須佐之男計画。進駐軍のなかにそんな秘密作戦があったのか。今この瞬間まで、タツオはそんな言葉さえ聞いた覚えがなかった。
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