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男のやわらかな腕まくらの中だった。
きづくとお腹がすいている。
男を起こさぬように離れ、下着をつけずに男のシャツを借り、外へ出る支度をする。
ドアを開けると男が目覚め、どこへ行くのかと聞いてきた。
とっさに目の前のテーブルにあったやきいもを見て、お腹がすいたからバター買いに行く、と答えた。
「せっかく私のために買ってきてくれたんでしょう?だから何よりもそれを食べるよ、チンして。」
一緒にいく、と男は言うがきっぱりと断り、ドアを閉めてしまう。
だって本当の目的はちがうのだから
マンションを出てすぐ、携帯を取り出し、あれこれと言い訳を考える。
「私がわるかったね。ごめんね。
もう奥さんにやきもちをやいたり、わがままをいったりしないから。」
大丈夫、ずっとこれでうまくやっていけた。
深呼吸し、(それはため息もつかせたが)
彼の喜びそうな「セリフ」を考え、発信ボタンを、
押す……
すると、なんと、話し中ではないか。
なぜだろう、今までそれは、驚くべきことになかったことだった。
誰と話しているんだろう。
新しい女だろうか、
奥さんだろうか、
仕事の用事かもしれない。
ことによると着信拒否かもしれなかった。
もう、どうでもよかった。
そのときに目が、はじめて覚めるようだった。
もういやだ。もう疲れていたんだ。
しがみついていただけだった、それが習慣だった。
ちゃんと恋をして、相手と向き合いたい、
イジになっても楽しいことなんてひとつもなかった。
今までの自分を抱きしめるように
女はぽろぽろと泣き、泣きはらした目でコンビニへ行き、バターと牛乳を買い、目を冷たい牛乳パックでひやした。
さっきの男の家にもどると、男はかわいらしく寝たふりをしていた。
罪悪感と甘い気持ちでいっぱいになり、
やきいもをあたためるついでに、たっぷりはちみつを入れたホットミルクを作る。
「ごめんね」
――起こして。とつけくわえ、おわびのつもりのホットミルクをわたす。
男がぎゅうと抱きしめるので、『ありがとう、ほんとうに、ごめんね』と心の中でつぶやき、女はそいつを抱きしめかえした。
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