三度目の恋に触れる髪

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『そんなに毎日頑張ってたら、家の人心配するんじゃない?』 残業を終えての帰り間際、彼にそう投げ掛けた。 彼が独り暮らしを始めた情報を掴んだ上での投球だ。 あわよくば、な期待も込めて。 なのに返ってきたのは、鉄線を張り巡らした鉄球に変えてのデッドボールだった。 『そうすね、“彼女”は一応理解してくれてるみたいだけど…あっ、この話はオフレコで。周りにつつかれると面倒なんで。 実は同棲始めたんスよ俺、彼女と』 泣きはしなかった。けれど、 恋人の有無すら把握せず、自分がいかに傲慢な想いを抱いていたかを思い知らされた夜だった。 翌朝、自宅の洗面台の鏡に映ったのは、前日の一人やけ酒を引きずって顔がむくんだボサボサ頭。 その荒んだ姿に自暴自棄になって、中途半端に伸ばした髪に自らハサミを入れた。 だけど当然、不器用な手先で上手くいくはずもなく、結局は美容室で綺麗なショートカットに整えてもらった。 家路につく間、大人になってしまった事を少しだけ悔いた。
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