三度目の恋に触れる髪

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数名の通行人が何事かと自分達に視線を寄せる。 注目を浴びて恥ずかしい気持ちもあったけれど、私は手を取った相手の方を噛み付くように振り向いた。 「何なの洋野!追い掛けて来ないでよ」 「話してる最中に逃げられたら自分が不愉快にさせたって思うだろ」 「逃げてないっ」 「じゃあ『走り去られた』でいい。とにかく、相手に嫌な思いさせといたままほっとけねぇんだよ」 「……」 次第に上がっていた呼吸が落ち着いてくると、気持ちの方まで落ち着いてくる。 だけどその直後、とてつもない不快感が奥底から沸き上がって身体中を駆け巡った。 や、ヤバイ…これは――。 「……気持ち、悪い…」 蚊の鳴くような声で呟いた途端、私は近くの植木にもたれるようにしゃがみ込んでしまった。 視界が歪んで目が開けられない。 幸いにも吐き気は催してないけれど、平衡感覚が一時的に無くなっているのは明らかだ。 「バカ。飲んだのに急に走るからだろ」 バカは余計だっての。 そう胸中で悪態をつきながら、自分も八木相手に呟いた15分前を思い出す。
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