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だけどそのラブレターは、結論から言ってしまうと差し出す事は無かった。
体育館での式が終了して向かった教室、卒業証書を渡す前段階で、彼は担任からの祝辞としてこう述べたのだ。
『来月から君達は中学生ですね。実は先生も来月に結婚する事が決まっていて――』
一度目の失恋が決定した瞬間だった。
『この場で個人的な事を発表するのもアレだけど』とか『新しいスタートを切るのが同時期で嬉しく思う』だとか。
『結婚』のフレーズが深く突き刺さって、その後並べられた祝辞は何一つ覚えていない。
泣いたのは帰り道、小学校の校舎が見えなくなってから。
母は『小学校から離れるのがそんなに悲しいの。ほとんどの友達は同じ中学に行くじゃない』と、見当違いなフォローで私の頭を優しく撫でた。
翌日、初めて母に付き添ってもらわずに一人で行った美容室。
約一年かけて伸ばした髪は、初めての恋が呆気なく散ったのと同じようにいとも簡単に短くなった。
美容室の鏡に映った久しぶりのショートカットの自分は、少し、大人になったように見えた。
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