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「ちょっと、人の顔見て笑うって失礼じゃない」
「く…っ、いや、声には出してないけど牧原の口の形が『バカ』そのものだったから、からかってみただけでまさか自白してくれるとは…っ」
「人の無意識の口の動きに読唇術使わないでよ」
「ぷはっ…術っていうレベルかよ、バカって二文字だぞ二文字」
そこに机があったら間違いなく叩いているであろうというほどの洋野の笑いっぷりに、自分の感情をどう治めるべきか分からなくなってくる。
洋野の私への接し方はまるで小学生だ。
と言うよりも小学生の時から止まってしまっているのだろう。
私達は入社時期や高校以降の学歴こそ違うけれど、小学校と中学校が共通の同郷だ。
そして洋野の事を少し“いいな”と思った事があるのも事実。
だけどそれは恋じゃない。そう言い聞かせる。
「はぁ、まぁいいけど」
これ以上イライラさせられたくなくて会話を打ち切るように言うと、また春の強い夜風が私の首筋を撫でた。
「さむ…」
思わずコートのボタンを締める。
しまった、ストール持ってこれば良かった。
その気持ちが無意識に手の動きに表れてしまってたんだと思う。
両方の手の平でうなじを覆った私を見て、そして暫く経ってから洋野は口を開いた。
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