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結婚したい男No.1の慌てる様子に、自分の口は“ え ”と“ なに ”ばかりをこぼし、頭には「?」が浮かんでいる。
急に騒がしくなった電話の向こうでは、バサバサと布が擦れるような音。
布団にでも寝転んでころがっているんだろうか。
続かない会話にどうしたんだろう、と耳を澄ませていれば、しばらくバサバサした後、静かになった。
「あ、あの、高橋さん…?」
と、思ったら今度はバタバタガチャンと足音と扉を開ける音と、早口で紡がれる言葉。
『ああ!』
「へっ?!」
『いや、待て、今何時、うわ、ダメだ!』
あーもう何やってんだ俺…。
そのつぶやきの後、電話の向こうはシーンと無音になり、少しの間をおいてから結婚したい男No.1はため息をついて、小さな声で私の名前を呼んだ。
『美里さん…』
「は、はい」
『今日、泊まりに行くの断られちゃったけど、何となく会いに行こうかなって帰りに思ったんですよ…』
用事あるって言ってたけど、行けば会えるような気がして…。
『でも家分かんないし、急に押し掛けても迷惑かなって思って自分家帰ってきちゃった…直感信じて言うだけもっかい言ってみれば良かった』
少しかすれた声で紡がれる言葉に、部屋の壁へと目を向ければお気に入りの壁時計はすでに23:30すぎを指している。
その時刻に、さっきのバタバタが何だったのか何となくわかった気がした。
「…会いたいって思ってくれたの?」
『何言ってんすか、ずっと思ってる、会いたいって』
自分の勝手な思いで用事があるなんて言ったことに、ちょっと罪悪感。
ごめんね、と謝れば、結婚したい男No.1は、ううん、と否定の言葉を返した後、このまま明日になるまで電話してていいですか?と至極やさしい声でぽそりとつぶやいた。
「うん…ありがと、」
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