ふぁんたじーらいふ

序章 手続きは大事だよ

　就職氷河期などと呼ばれていた時期が過ぎたとニュースで取り上げられてはいるが、自分自身としては全く実感などなかった。
　大学を卒業したにもかかわらず、定職に付けず非正規労働者として働く若者がまだまだ多い。などと解説されても、やっぱり実感はない。
　何故なら、自分自身は高校を卒業した後、進学せずに就職したからだ。

　特に有名な進学校でもなければ有名な問題校でもない、そんな地元の高校を卒業した後、地元の企業に就職した。
　就職してから早いものでもう二年、それは職場の雰囲気にも仕事の内容にも慣れてきた頃の事だった。
　就職氷河期以上に、身近に感じなかった出来事と遭遇したのだ。そう、魔物と魔法少女が戦っているなどという常識離れした出来事にだ。

　実際に一部のネット上などでは話題になっていたが、この科学全盛期の現代に魔法少女だの魔物だのそんなものが実在しているなど、相手にするだけ馬鹿馬鹿しい程度の噂話。自分の中ではまさにその程度の認識だった。
　しかし、休日を利用して行った大阪は阿部野橋で、噂話程度と思っていた存在を目の当たりにしてしまった。
　人々の悲鳴、我先にと逃げ惑う人々の声、子供の泣き声、車のクラクション。そんな音が交わり合う阿部野橋の真ん中で、二つの存在は互いの存続をかけて命のやり取りを交わしていた。

　まさにモンスターと言うに相応しい醜い外見の存在に、女子中学生か小学生位の魔法少女が、手に持った二挺の拳銃で攻撃している。
　まるでアニメや漫画の一場面の様なその光景に、自分自身でも気づかない間に引き込まれ、そして見入っていた。戦いと言う名の劇を前に、その目は釘づけだったのだ。
　早く逃げろ、危ないぞ。そんな他人の声が聞こえた気もしたが、耳すらも二つの存在が奏でる戦いと言う名の音楽を聞くのに必死であった。

　しかし、そんな刺激的なエンターテイメントの観賞料は、あまりにも桁外れであった。そう、まさに命の値段のように。