第五伝・華山ノ神仙『示意(しい)と知命』

14/28
110人が本棚に入れています
本棚に追加
/894ページ
「私は劉氏【りゅうし。女性が氏と言う場合は既婚していることを表す】、趙家に嫁いだ者で、息子の名は二字名で重胤(じゅういん)と言います。 かの高名な陳慱先生には御苦労をかけさせたばかりか、私の病まで治して頂き、何とお礼をしたらいいものか・・・」 童の母親ー劉氏ーはそう言って陳慱に向かって頭を下げた。 劉氏に趙重胤、か・・・これも、また天機の成せる業なのかな・・・ 初めは元宵節の祭を見て回る以外は何の気無しに入った街・・・陳慱はそこで趙重胤に出会い、劉氏に纏わり付いた厄鬼を祓った。 厄鬼は力をつけ、知識を持つ術者でなければ祓えぬ神の僕。陳慱が訪れなければ、劉氏は十中八九死んでいただろう。 これは全てが終わったあとの結果論でしかないのかもしれないが、陳慱がこの街に入ったのは、厄鬼に侵された劉氏を救う為であり、天機に記されたことだった・・・そう、陳慱は考えるようになっていた。 それにしても、お礼、か・・・ 厄鬼についての知識はあったものの、直に対峙してこれを祓ったのは初めてのことであり、自らの力の程度を知るいい機会になった。今後、厄鬼の害に遭った人間に対しては同じようにすれば問題はないと確かめることもできた。 陳慱にとって、それが何よりの礼であり、これ以上望む心はなかった。だから、劉氏からはもう何も貰う物はないのである。 『かあさんといっしょにみたいのに・・・』 不意に、趙重胤の言葉が陳慱の頭を過った。思えば、この一言から陳慱は厄鬼を祓うことを決めたのだ。 そうだ・・・なら、これが今の私にとって・・・ 意を決した陳慱は劉氏に向かって、 「でしたら、これから街へ行きましょう。 折しも元宵節の真っ只中、ご子息に元気な姿を見せ、共に年の始まりを祝う為の祭を楽しむことが、今の私にとって何よりの報酬でございますれば・・・」 「そんな、そんなことでよろしいのですか・・・?」 「勿論です。元々、貴女と一緒に祭を見たいという重胤君の願いを叶える為、私はここへ足を運びました。謂わば、私の頼まれ事は未だ途中であり、貴女が重胤君と祭を見てやっとお礼が貰えるのです。 さぁ、行きましょう。重胤君が、待っていますよ・・・」
/894ページ

最初のコメントを投稿しよう!