第1章

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「はあ」 「そう遠慮することはなかろう。まさか、霊煌の活発さに浮かれてしかとは聞いていない、というわけではあるまい?」 「いや、聞いてたぞ」 「それならば、よい。あんなに人を愛す地龍はいないだろうな。人に近しいことが、あんなにも嬉しいなどわたしには分からぬが、ともかく愛らしくて、愛おしい」 「……へえ」  なんだか気のない声を出す若い天龍に、ちゃんと教えておいてやらねばと表情を引き締めて言った。 「そなたも伴侶探しに精を出すのだぞ。天龍の伴侶探しは我らと違い、そうそう見つかるものではないだろうが……伴侶ほど自身を満たすものはない。素晴らしい出来事はないのだ」  そう言い聞かせると、若い天龍は瞬きふたつして、こくりと頷いたようだ。 「それでは、幼子よ。この度の我が伴侶の歌、無碍にはしないだろうな」 「ふむ」  若い天龍はふたたび私の周りをくるりと回ると、そのまま地上へ下りながら言う。 「よいだろう。ここは心地良い。汚れを祓おう」  くるり、くるりとうねりながら地上へ向かった天龍は、そのまま木々の合間を縫い、泉を掠め、最後に人々の田畑を撫でるように浮遊して、霊界へ去っていった。
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