序章【激ウマ棒 ¥200,000,000】

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【1】  十円が二億円に変わった。  テレビでその特集を見たときに、俺は驚愕した。   『これこそ怪盗バンクシーズが激ウマ棒を盗んだ証として駄菓子屋の塀に描いたイラストです。筆のようなもので色鮮やかに描かれているのは妖怪大戦争でしょうか!?』  百鬼夜行だ。  陳腐なタイトルつけんなよ。    いや、まあそれはいいんだ。  俺が驚いているのは、アメリカの有名な映画監督が二億円で百鬼夜行を買い取るという情報なのである。  そして、その二億円は駄菓子屋の婆さんが貰ったのである! 「あーあ。二億円がパァになった。ふざけんなよ」 「まあいいじゃないか。駄菓子屋の御婆さんが僕たちにここを譲ってくれたのは非常にありがたいことだ。というか、三ヶ月前のニュースを何回も見るんじゃない。未練たらしいぞ春樹」  六畳間のリビングにて、正面にいる相棒が俺を諭した。  青髪アシメで三白眼なバンクシーズの参謀。  こいつの名前は景山鶴吉。  って感じで、まるでバンクシーズに更なるメンバーがいることを匂わせる表現をしたものの、現在のメンバーは俺を含めて二人だ。  二億円で海外に引っ越した婆さんから貰った駄菓子屋をアジトにして生活を営んでいる。 「それに、あの御婆さんは毎月十万円の仕送りをくれているじゃないか。公園に住んでいた頃より優遇された素晴らしい環境だ」 「うるせー! 二億から十万円ってのが気に入らねえんだよ! ゼロひとつ増やせよ!」  畳の上で身もだえする。  思い出しただけでも腹が立ってきた。  いや、激ウマ棒を盗んだ俺も悪いよ!  でもさ、この待遇はないわ!  せめて映画監督が撤去した塀ぐらい新調しろよ。  泥棒だけど何かが盗まれそうで気が気じゃないったらありゃあしない。
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