序章【激ウマ棒 ¥200,000,000】

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「やれやれ、そんな虚しいことをするぐらいなら、須らく怪盗としての仕事をすべきだと思うのだが」 「最近ネタ切れなんだよ。盗むっていっても、すぐに返すしな。つーか、俺達の盗みっていうのはストリートアートを目立たせるためのパフォーマンスであって、目的じゃねえんだよ。そもそも、お宝とか興味ないし」  俺たちはイギリスの覆面芸術家の名前を借りてパフォーマンスをしている。  バンクシーさんは俺にとって目標であり、指針であるが、決定的に違うところがある。  俺たちバンクシーズは目立ちたがり屋だ。  あの方が道端に可憐に添えられた花だとすれば、我らはアスファルトを突き破る広葉樹だとでもいうべきか。  自分でも主張が激しいと思う。 「そういや僕の作品は一億で売れたらしい。市役所に描いたので市が街を発展させる軍資金となったようだ。暁光町はいい場所だから更なる進化に期待したいところだ」  ああ、そんなこともあったな。  市長の資金繰りに期待しておこう。  さて、問題は今後の俺達の活動である。 「市長のことより俺たちだよ。これからどうしよう。博物館の日本刀でも盗むか?」 「近くの博物館で陶器盗んでから返却したばかりじゃないか」 「だよな。万引きなんてダサいことを有名になってからやるのも気が引ける。なんつーか、有名って大変だぜ」  俺たちの万引き行為は、東大生が足算のテストで満点を取るぐらい価値がないだろうな。  ああ、何を盗もう。    ふとテレビを見直すと画面に映っているのは別番組だった。  これは『発掘ピカソ』という番組らしい。  右斜め上にタイトルが書いてあった。 『本日は暁光町にやってきました! 本日訪問するのは、人物画のエキスパート、野茂美智子さんの御宅です』
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