6人が本棚に入れています
本棚に追加
野茂美智子?
見たことも聞いたこともない。
どうせ三流芸術家だろう。
大きな白い屋敷のドアホンにカメラが注目する。
実況者がそれを押した瞬間、鈴を転がしたような声がした。
「は、はい」
しばらくすると、どたどたと慌てふためいたような足音がしたかと思うと、がちゃりと勢いよく扉が開いた。
現れたのは、フレームレスの眼鏡と白い肌をしたロン毛の女子!
なんつーか、瞳の輪郭が柔らかいというか、引っ込み思案なお嬢ちゃんて感じがした。
名前によらないなあ。
野茂美智子ちゃんか。
てっきりオバハンかと思っ……。
「あたくしが野茂美智子でございます。ようこそ、いらっしゃいました」
割り込むように、しわくちゃのオバハンが飛び出してきた。
邪魔だ、どけ!
画面に向かって吠え盛る俺は、まさに繁殖期の猿だ。
芸術家とは本能で動くものである。
少なくとも俺はそんな感じ。
ちなみに俺が可愛いと思った女子は小和瀬祈祷というらしい。
名前の読みは『いのり』というそうな。
薄いブラウンの長い髪は、手触りがよさそうである。
ああ、女子アナさん。ババアのくだらねえ肖像画コレクションなんて映してないで、須らく祈祷ちゃんのグラビアを激写すべきだぜ。
少なくとも俺ならそうする。
しかし、テレビ画面でセレブまがいのポーズを決める熟女は、よっぽど自分の作品を説明したくないらしい。
祈祷ちゃんや自分の息子に解説をまかせている。
典型的プロを騙るクソババアだ。
芸術とは書き手にしか語れないパズルのようなもの。
他者は作品の雰囲気からアートを評価したり物語を作るわけだ。
絵を買いたい奴は、それに自分なりの物語を見出しているから大金をはたく。
最初のコメントを投稿しよう!