序章【激ウマ棒 ¥200,000,000】

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 野茂美智子?  見たことも聞いたこともない。  どうせ三流芸術家だろう。  大きな白い屋敷のドアホンにカメラが注目する。  実況者がそれを押した瞬間、鈴を転がしたような声がした。 「は、はい」  しばらくすると、どたどたと慌てふためいたような足音がしたかと思うと、がちゃりと勢いよく扉が開いた。  現れたのは、フレームレスの眼鏡と白い肌をしたロン毛の女子!  なんつーか、瞳の輪郭が柔らかいというか、引っ込み思案なお嬢ちゃんて感じがした。  名前によらないなあ。  野茂美智子ちゃんか。  てっきりオバハンかと思っ……。 「あたくしが野茂美智子でございます。ようこそ、いらっしゃいました」  割り込むように、しわくちゃのオバハンが飛び出してきた。  邪魔だ、どけ!  画面に向かって吠え盛る俺は、まさに繁殖期の猿だ。  芸術家とは本能で動くものである。  少なくとも俺はそんな感じ。  ちなみに俺が可愛いと思った女子は小和瀬祈祷というらしい。  名前の読みは『いのり』というそうな。  薄いブラウンの長い髪は、手触りがよさそうである。  ああ、女子アナさん。ババアのくだらねえ肖像画コレクションなんて映してないで、須らく祈祷ちゃんのグラビアを激写すべきだぜ。  少なくとも俺ならそうする。    しかし、テレビ画面でセレブまがいのポーズを決める熟女は、よっぽど自分の作品を説明したくないらしい。  祈祷ちゃんや自分の息子に解説をまかせている。  典型的プロを騙るクソババアだ。  芸術とは書き手にしか語れないパズルのようなもの。  他者は作品の雰囲気からアートを評価したり物語を作るわけだ。  絵を買いたい奴は、それに自分なりの物語を見出しているから大金をはたく。 
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