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芸術家というより人間としての在り方が、俺とマッチしない。
水と油だ。
「春樹、ちょっといいか」
「どうしたんだ鶴吉」
「小和瀬という子の身体に注目するんだ」
うん、さっきから見てる。
おっぱい大きいよな。
ウエストは太過ぎず細すぎない。
モデル体型というより、一般的な女子というべきスタイル。
完璧なまでに俺好み!
何故なら俺は、全国の可愛い女子高生ベストファイブのなかから第五位を選ぶタイプの男だから。
女っていうのは完璧すぎると駄目なのさ。
より、普通に。より、無難に。
親近感があればあるほど好感度を持ちやすい。
あー、むらむらしてきました。
凄くトイレに行きたいです。
「猿のようなことを考えるな。長袖のワンピースから見えた手首に痣があったのだよ」
「へえ、怪我でもしてんじゃない?」
「あと、距離の取り方だ。アナウンサーを壁に見立てて野茂親子から距離を取っている。彼女の身体が本能的に野茂一家を拒絶している証拠だ」
興奮している俺のハートを氷点下まで冷ます鶴吉。
どうやら冗談じゃないらしい。
階段を上り、家族の部屋に足を踏み入れるカメラマン。
壁に掛かった絵画は、どれもこれも肖像画。
学校の怪談とかでメジャーなベートーベンを思わせる顔ぶれが、カメラ目線でこちらに挨拶をしてくれた。
オリジナリティがねえな。
どれもこれも基本に忠実で、教科書の内容さえ踏まえれば万事解決とでも謳っているようだ。
ただ、肖像画の背景を飛び交う花弁のひとつひとつには、何か強い情熱のようなものが伝わってくる。
きめ細やかで、強く儚い。
芸術の可能性が心臓に軽く響いてくる感触がした。
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