序章【激ウマ棒 ¥200,000,000】

6/7
前へ
/37ページ
次へ
「この絵は、養子の祈祷が描いたも……」 「「描かされたものだな」」  オバハンの台詞を阻むように発した声が、コンマ数秒も違わずに鶴吉とシンクロした。  芸術家にはわかるんだ。  祈祷ちゃんが、人物画にうんざりしてるって。  だって、ヒトよりも植物のほうが綺麗だもん。  本気で書きたいのが、コレだって抵抗しているのが見え見えだ。 「描かされている。まるで、人物画の書き方をトレスしたような覇気のなさだ。筆使いに個性がなさすぎる。マシンで再現できるような、つまらん絵だ」 「超絶同意だ。祈祷ちゃん、風景画のほうが向いてるって」 「これで、わかっただろう。彼女は虐待されている。やつれない程度にチクチクと……精神に少しずつ麻酔薬を垂らして、動きをじわりじわりと制限させる卑劣な虐待方法だ。この手のタイプは、被害者も加害者も自覚がない」  俺が鶴吉と出会ったのは孤児院内だ。  小学校三年生の頃に、親に虐待をされたとかナントカでやってきた。  だからだろうか。  この三白眼は傷に敏感だ。 「なによりも性質が悪いのは、第三者が瞬時に虐待だとわかることだ。だが、精神的なダメージしか与えていないので肉体面にあまり証拠が見えない。だから手が出せない」 「ふーん。そんなもんか」 「マインドコントロールの基本は人格否定から始まる。出かかった自信を芽生える前から摘み取って、自分が非力であると思い込ませるのだ」  自信なんてもんは自分を信じるから自信だ。  他人にとやかく言われて変わるもんじゃないだろう。  とは思うが、個人には個人の価値観がある。  どれだけ親密でも、交われない部分はあるので、折り合いをつけなければならない。  すなわち、こだわらないことには妥協すべしということ。
/37ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加