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「この絵は、養子の祈祷が描いたも……」
「「描かされたものだな」」
オバハンの台詞を阻むように発した声が、コンマ数秒も違わずに鶴吉とシンクロした。
芸術家にはわかるんだ。
祈祷ちゃんが、人物画にうんざりしてるって。
だって、ヒトよりも植物のほうが綺麗だもん。
本気で書きたいのが、コレだって抵抗しているのが見え見えだ。
「描かされている。まるで、人物画の書き方をトレスしたような覇気のなさだ。筆使いに個性がなさすぎる。マシンで再現できるような、つまらん絵だ」
「超絶同意だ。祈祷ちゃん、風景画のほうが向いてるって」
「これで、わかっただろう。彼女は虐待されている。やつれない程度にチクチクと……精神に少しずつ麻酔薬を垂らして、動きをじわりじわりと制限させる卑劣な虐待方法だ。この手のタイプは、被害者も加害者も自覚がない」
俺が鶴吉と出会ったのは孤児院内だ。
小学校三年生の頃に、親に虐待をされたとかナントカでやってきた。
だからだろうか。
この三白眼は傷に敏感だ。
「なによりも性質が悪いのは、第三者が瞬時に虐待だとわかることだ。だが、精神的なダメージしか与えていないので肉体面にあまり証拠が見えない。だから手が出せない」
「ふーん。そんなもんか」
「マインドコントロールの基本は人格否定から始まる。出かかった自信を芽生える前から摘み取って、自分が非力であると思い込ませるのだ」
自信なんてもんは自分を信じるから自信だ。
他人にとやかく言われて変わるもんじゃないだろう。
とは思うが、個人には個人の価値観がある。
どれだけ親密でも、交われない部分はあるので、折り合いをつけなければならない。
すなわち、こだわらないことには妥協すべしということ。
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