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ホームルームが終わった。クラスメイトたちは帰り支度をしながら、各々の話に興じている。
俺もそれに倣い、ロッカーから荷物を取り出すと帰り支度を始める。このあと、あの事務所に行かなきゃならないのかと思うと、陰鬱な気持ちで満たされてきた。もうパシリは勘弁して欲しい。
「よう、英雄!今日暇?」
陰々滅々としている俺に、クラスメイトの田中のりおが軽やかな声で話しかけてきた。
「悪い、今日バイトなんだ」
「え?バイトやってたっけ?」
のりおは瞠目して言った。大仰にも後ろに体を仰け反らせている。そんなオーバーリアクションしなくてもいいだろう……。ニートだって言われているような気がして悲しくなるんだけど……。
「昨日決まったんだよ。念願のヒーロー。これで俺も街を守るスーパーヒーローの仲間入りってわけだ」
「そのジョーク受けるよ」
のりおはへらへら笑いながら、軽い調子でそう言った。さてはこいつ、信じてねえな。心なしか妄想にとらわれる厨二病患者を見るような目で見られているし。
「いや、ヒーローの会社にバイト決まったのは本当なんだけど……」
「はいはい。今日日お前のような女顔のもやし君雇ってくれる事務所があるとは思えないけどな」
「せめて中性的な容姿って言ってくれよ……」
こいつ容赦無いな、ホントに。たしかにもやしなのも女の子っぽく見えるのも自覚しているけど、それを面と向かって言われると傷つく。彼には豆腐メンタルの扱い方を学んでほしいものだ。
俺はため息を吐き、窓の方を見やる。今日も穏やかな春の日差しが照りつけている。
窓の脇には数人の少女が立っていた。その中の一人が異様に目を引く。彼女が視界に入ると俺は思わず息を呑んだ。
日光を浴びて艶やかに光る黒い髪。きめ細かい肌。春のようにのほほんとした穏やかな雰囲気。俺たち系男子の憧れ清楚系美少女の麗日うららは、窓際で友人たちに囲まれて何やら話している。学校一の美少女と謳われるだけあって、今日もまた一段と美しい。うららたん、マジ天使!
しかし、今日のうららたんはどこか顔色がすぐれない。他の連中からすれば、普段通りの彼女に見えるのだろうが、学校にいる間は四六時中うららたんを見守っているうららたん専属騎士長の俺には一目でわかる。体調悪いのかな。
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