第1章

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「センター街のゲームセンターに不良、ですか?」 「ああ、そうだ。入場禁止時間になっても帰らなくて困っているそうなんだよ」 俺の問いに社長が頷いた。大仰にも両手を組み、顎を乗せて顔を支えている。本人は決めているつもりなのか眼光は鋭いが、傍らのポテチの袋で完全に台無しである。 「それで、うちに仕事が舞い込んできたということですか?」 「そういうこと!さすがは瑞希ちゃん、察しが良い!」 つまり、今回の仕事はゲーセンの入場禁止時間を守らない不良の放逐といったところか。ヒーローというよりは警察の仕事っぽい気がするが、パシリよりはマシである。 というか、これ時間帯を考慮すると俺達には無理なんじゃないか?たとえ、ヒーロー会社のバイトといえども、俺達は高校生なわけでゲーセンの入場禁止時間ともなれば、外を歩いていると警察に補導されてしまう。 真田さんも同じことを思ったらしく、社長に疑問を投げかけた。 「これ本当にうちで引き受けて良かったんですか?私と野口君も高校生だから入場禁止時間にはそのゲーセンに入れないと思うんですけど、その辺どうなんですか?」 「それなら心配には及ばんよ。例のゲーセンの未成年入場禁止時間は六時だ。なんでも、店長が、楽したいってことでそうなったらしい。まったく、労働をなんだと思っているんだか……」 このおっさん、自分のこと棚に上げて何を言っているんだ……。 というかそのゲーセン大丈夫なのか?経営者のそんな姿勢を聞くと、むしろゲーセンの行く末が心配になる。  ただそこでまたひとつ疑問が浮かんできた。  この業界で肝要なのは信用である。大手の事務所は続々と舞い込む仕事をこなし、多額の報酬を得ている。そうして得られた資本金を元手に設備投資したり、優秀な人員を雇ったりするのだ。すなわち事務所の規模と依頼人からの信頼は比例する。 昨日、真田さんが言っていたように不良の相手といった一つ間違えれば別の問題が起こりうる仕事は本来、大手の事務所に委託されるものだ。それは信用と実績のある事務所ならつつがなく問題を解決してくれるはずだという依頼主からの信用に基づいている。反対にうちのようなうらぶれた事務所だと、信用がないため、この手の依頼は来ないはずだ。メリットといえばせいぜい依頼料が安いというくらいだろう。
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