第1章

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「なんでうちのようなうらぶれた事務所に不良の対処なんて依頼が舞い込んできたんですか?」 「ああ、それか。それはなぁ……」 社長が苦虫を噛み潰したような顔をする。さてはこのおっさん、何か隠してんな。 「社長、何か隠してるでしょう?」 「う、うむむむ……」 真田さんに問い詰められて、社長は唸りだした。幼児退行しそうで心配だなぁ……。 「実はなこの依頼、もともとは他所の事務所に委託される予定だったんだが、それを半ば強引に話をつけてうちで引き受けたわけだ」 「つまり、よその事務所の仕事を横取りしたってことですか?」 「そういうことになる」 社長が深刻な表情をしつつ頷く。というかこの人なんで他人事みたいに言ってんの?自分が直接仕事しないからってお気楽すぎないか。 それはそうとこれはまずい状況である。 信用第一の業界で他所の事務所の仕事を横取りすることは事務所の存亡に関わる問題だ。仕事に失敗すれば依頼人からの信用を失うのは当然のことだが、同時に他の事務所から白眼視されてしまう。こうなると他の事務所が連携して、仕事を横取りした事務所に仕事が行かないように根回しをする。そうなれば、うちのような凋落した事務所は終わりだ。 「社長、これってまずいんじゃないですか?もしも失敗しようものなら……」 「失敗したらたしかにまずいだろうが、その心配はない。それより君まで私を社長と呼ぶのか……。仮にもヒーローの会社なんだから局長のほうがカッコイイと思うのに……」 社長が他人事のように言い放つ。なんで依頼のことより、呼び方に反応するんだよ……。今置かれてるが状況理解できていないのか?それとも仕事するのは俺達だからってお気楽に構えているんじゃないだろうな。 俺の咎めるような視線に気づいたのか社長は咳払いすると続けた。 「うちには瑞希ちゃんがいる。瑞希ちゃんが円満に解決してくれるさ」 「はぁ……。ホントに人使い荒いんだから」 真田さんがため息をこぼした。そりゃそうなるよな。社長の尻拭いするために、不良の相手をさせられるんだから。というか、このおっさんは、女の子に不良の相手をさせて心が痛まないのだろうか?そりゃたしかに真田さんもヤンキーっぽい容姿しているけど……。 「社長、真田さんに不良の相手をさせるのは流石に問題有りだと思うのですが……」 「それなら心配いらないわ」
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