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「ふぇっ、うっ、終わった...私もう学校来れない」
溢れ出した涙が、俯くと同時にひと粒、ふた粒とこぼれ落ちる。これは、マズイ。
周りの視線がこちらへと集まっていく。慌てた俺はこの場から逃げるべく、有栖の腕を掴み走り出した。
お互い一巻二巻とライトノベルを片手に、掴み掴まれの片手と腕は未だ離れずに、足は階段を駆け上がる。
授業開始まで残り10分というのに無計画にも程がある。泣き虫とは聞いていたが、泣かしてしまったのは初めてだ。
階段を上がるべくUターンを繰り返していると、ついに最上階に到着してしまい足が止まる。息切れするかと思ったが、呼吸も乱れず汗もそこまでかいていなかった。そこで思い出すように有栖の方へと振り返ると、有栖は咄嗟に視線を逸らす。
「わ、悪い...疲れたか?」
「...別に」
有栖の言う通り、疲れている様子はなく、汗ひとつかいていない。二階から四階までノンストップだったのだが、お互い体力がある方なのだろうか?不思議だ。
「そろそろ、手、離して」
「のあっ...悪い、つい」
手を離し二、三歩後退りする。そのまま、驚いたポーズのまま固まっていると、有栖は視線を合わせて手に持っていた書籍を両手で抱える。
「お願い、バラさないで」
沈んだような、感情のない声のトーン。そして今にもまた泣き出しそうな瞳を、上目遣いの瞳を、その紅い瞳を、俺の視線へとぶつけてくる。
「もしバレたら、私...」
「わかってる、言わな...」
「アンタを殺すから」
「墓場まで、いや、天国でも地獄でも来世でも言いませんとも」
そんな心臓に悪い言葉と鋭くなった視線が、俺の視線を吹き飛ばし脳天を貫通した。なんだか、相手から奪った武器が爆弾でしたみたいな、そんな感じだった。体験したことないけど。
「授業、始まっちゃう」
「お、おう」
「本、返して」
「んあ?いや、借りる」
「は?!」
「折角だからな、読むよ、面白いんだろ?二巻読んでんだから」
何と言っても、珍しいしな。
「槍でも降るの?」
「かもな」
「...こんな事初めてだわ、脅して引かない奴」
コイツはいったい何人の人を脅してきたんだろうか...。考えるだけでも恐ろしい。
「...よかった」
「ん?なんか言ったか?」
「別に」
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