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訳も分からず困惑したまま、とりあえずデパート内に入ってみることにした俺と肩の上の幼女。わりと大きな建物にしては、人の気配が全くしない。
俺の足音だけがコツコツとこのフロアに響く。
「何がどうなってやがる...」
「ご飯はー?」
「もう少し我慢しろ」
あぁ~っと力無く漏れる声と同時に、身体の力も抜けて俺の頭にへたり込んでしまう。早く飯を食わしてやりたいが、その前に今の状況を理解したかった。
適当に歩き回っていると、今は稼働していないエスカレーターの横の柱にフロアマップが記載されていた。大まかなカテゴリで区切られているが、主にこのフロアは食品がメインになっているようだ。
丁度いい、ここらで食料を調達することにしよう。そう思い、マップを頼りに進んでみると、生鮮食品売り場に着いた。が、期待していた物はそこには無かった。
緑も赤も紫も茶色も一切なし。生鮮売り場には野菜は一つもなく、レタスの葉さえ落ちていない。もしも今日野菜炒め食いたさに買い物に来ていたら、発狂して暴れていただろう。
気を取り直して畜産売り場へと向かってみるも、生鮮売り場同様そこにも何もなかった。
肉炒めすら出来ないとなると、俺はいったい何を炒めればいいのだろうか。と、訳の分からんことを考えながら次に加工食品へと向かうが、やはり棚には何も陳列されておらず、床に商品の空き箱が落ちているだけだった。
「何もないな」
「もう髪食う!!」
ぶちぶちっと髪の毛を数本抜かれる。
「ちょ!いてぇよっ!!」
「うーん不味い、もう一本」
「青汁感覚で髪を抜くなっ!そして食うなっ!」
髪を掴まれないように、愛生を両手で持ち上げる。
「ん?なにこれ」
すると、偶然にも棚の上に乗っていた何かを見つけ、愛生はそれを手に取りかじりついた。
「硬い、食えない」
「あっ、何でも口に入れちゃダメだろ」
そう言って愛生から奪い取ったのは、光沢のある丸くて黒い球体。愛生が両手でやっと持てる大きさで、おおよそ野球のボールより若干一回りくらい大きい球。
そんなただの球体が、
『シンキトウロク、セット...完了。テキゴウ率...92.8%』
突如、無機質に喋りだした。
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