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デパートの出口を肩で押し開ける。外に出ると、何故かもう夜になっていて、先ほどまでの真新しかったこの街が、
「なんだよ...これ」
消し飛んだように崩壊していた。
体を振り返って今出てきたデパートを確かめると、そこはがれきの山になっていて、出口も入口も無かった。空を見上げると、見たこともない真っ赤な月が俺のことを赤く照らしていて、地面に転がっている何かをぼやかしていた。
はっきりと見えない。見たくない。見てはいけない。俺は愛生を起こしてしまわぬようにと、息を止めた。何とか喉元まで上がってきた絶叫を無理矢理飲み込むと、震えの止まらない脚で歩き出す。
視界には数えきれないほどのソレが映り込む。無数に転がっているソレを避けながら、ぴちゃぴちゃと足音を立てて歩く。不快感で体が重くなり、冷たい汗が背中や額から流れ落ちる。
無事なのかわからないが、自分の家にとにかく向かっていると、愛生が鼻をひくつかせて目を覚ました。気付かれないように眠らせようと思ったが、愛生の様子がおかしくなっているのに気付いた。
瞳孔が開き、八重歯が鋭く伸びていた。まるで、吸血鬼のように。
「血の匂いがする...お腹、空いた」
「愛生...?」
「食べてみたい...いい?」
歯が噛み合う音がギシッと聴こえる。それは愛生が狂喜し立てた音であった。愛生は、地面に転がるソレをまるでご馳走かのように飛びついて行こうとするが、俺は必死に抱きかかえ止める。こんなに小さな体だというのに、ありえないほどの異常な力で俺の腕から抜けようとする。
「やめろっ!!愛生!!それは駄目だ!!!」
「美味しそうなの!!!食べてみたいの!!!血があぁッッ、血があぁッッ、離してよ!!邪魔しないで!」
愛生の爪が食い込み腕から血が出る。そうかこれだったら――――――と、俺は迷いなくその傷口を、愛生の口に押し付けた。
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