大晦日の大勝負

2/10
前へ
/10ページ
次へ
  今年は何と言っても若手俳優で結成したアイドルグループでの活動が一番の大きな出来事だった。 俺にとっては初となるCD発売もして、ライブツアーもして、さらにはドラマの主演もさせてもらったりと舞台で演じるのとはまた違う面白さを感じる仕事がたくさんあった一年だった。 そして、最後。 集大成としてのカウントダウンライブ。 初の試みに、一ヶ月以上前から普段のライブとは違う構成にしようとみんなで意気込んで準備してきた、大切な記念行事である。 これさえしっかりやれれば、スッキリと来年を迎えられるなと昨日も皆で話したところだ。 そう、これさえしっかりやれれば…。 「…マジかよ」 12月30日。 リハまであと数時間。 今年はカウントダウン後にそのまま帰省しようと思って荷物をまとめ始めていたのだが、急に身体に違和感を感じた。 まさか、まさか、まさか。 嘘だろ、いや、嘘だ。 ちゃんと予防接種したし、外に行くときはなるべくマスクも付けていた。 いやいやいやいや、マジで勘弁してくれ。 この大事なときに、本当にありえない。 でも、この身体の感じは以前にも何度か体験したことが、ある…。 「…ジン、ごめん、俺インフルかも」 体温計片手に急いでかけたマネージャーへの電話で、俺は弱々しく声を震わせる事しか出来なかった。 液晶画面には37.9℃の表示。 『まだ結果出ないかもしれないけど一応病院行ってみろ。車回すか?』 「いや、タクシーで行くから良い…」 自分でも凹みすぎだろ、ってくらい覇気のない自分の声に、はぁ、とため息が出た。 (何やってんだろ、俺…) ぞくぞくと背中を襲う寒気に、ぼんやりし始めた思考。 身支度をして病院へ向かう頃には完全に熱は上がりきっていた。 ***
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

29人が本棚に入れています
本棚に追加