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「症状的に、おそらくインフルエンザでしょう。まだ反応出ないかもしれませんが一応検査してみますか?」
「あ、はい…お願いします」
行きつけの病院は年内最後の診察日で、とても賑わっていた。
インフル拡散予防と顔バレ防止でマスクをつけて行ったのだが、インフルエンザかもと話したらすぐに別室に移されて、ほぼ人と顔をあわせずに済んだ。
嬉しいやら、悲しいやら。
もしかしたらこのまま俺は誰にも会わずに年を越すのかもしれない。
インフルにかかった状態で実家のじいちゃんばあちゃんになんて会えっこないし、一週間もすれば当たり前に新年の仕事だって始まってるから帰省よりも仕事復帰が優先だ。
新年の挨拶は電話か、メールか。
ああ、このまま本当に誰にも会わずに年を越すことになるかも…
(考えただけで気が遠くなるな…)
「坂上さん、どうぞ。検査の結果出ましたよ」
「あ…はい…」
*
『航也?どうだった?病院行ったのか?』
病院からの帰り道。
大通りでタクシーを拾って乗り込み、スマホを取り出して2コール。
すぐに出た相手に「もしもし」と声を出せば、恐らくライブ会場にいるのであろう、メンバーたちの騒ぐ声が聞こえて一気に気落ちした。
「あぁ、今行ってきた…」
『…その声はダメだったっぽいな』
「A型だってさ」
『お、反応出たんだ』
「………」
『…おい、黙んなよ』
あと1日と半日。
今年は自分でも頑張った年だったと胸を張れるのではないかと思っていたが、最後にこんなことになるとは思いもしなかった。
あと、たった36時間…たった36時間で今年が終わるっていうのに…!
「最悪だ、マジで最悪だ…」
『ま、今年は働きすぎたってことだな。ゆっくり休めよ』
「ライブどうすんだよ」
『どうするも何もインフルエンザじゃ出れないだろ?』
「そうだけど…」
実はちょっと期待していた。
今年最後の仕事だし、インフルだって検査ではっきり出なければ熱だけ解熱剤で下げてちょっとでも出演出来るんじゃないか、と。
インフルだと診断されても、ちょこっとくらい、顔見せに出ても良いんじゃないか、…と。
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