29人が本棚に入れています
本棚に追加
実のところ、ほぼ一目惚れだった。
なんか分かんないけどとにかく惹かれたんだ。
あの時のきょとんと俺を見上げる顔を、今でもしっかり覚えている。
最初は何だか気になるなと思った程度だったが、そのまましばらく見ていれば、短い食事時間で俺はすっかり彼女に落ちてしまっていた。
彼女はぱっと見普通だが、その実俺にとっては特記すべき事がたくさんある人だったのだ。
みんなに気を払って飲み物をついでくれるところとか、自分の前にある皿は自分の分をとったらすぐに他に回してくれるところとか、魚の身を綺麗にほぐして食べるところとか、…変に気を遣わず、他のやつにするのと同じように俺にも接してくれるところとか。
至極普通なことを、普通にやってのける彼女が俺にとってはすごく良く見えた。
俺が今まで関わってきた仲間たちとは、根本的に何かが違った。
どこか懐かしい感じがして、なんかほっとするような不思議な温かさみたいなものがある。
…そんな人から、このタイミングでメールが、きた。
(もしかして俺がインフルってどっかで聞いて連絡くれたとか…?)
やばい、そうだとしたら相当嬉しい。
一回だけ、夕飯に誘って食事をしようとした時があったのだが、実はそのとき大失敗をして何時間も待たせた挙げ句、彼女とは会えなかった。
それから俺は、何だかうまく彼女に接する事が出来ずにいる。
気にしないでくださいと言われる度に、見えない壁のようなもので彼女との間を区切られているような感じがして謝ることも、それをきっかけにして突っ込んでいくこともできず、挽回の機会すら掴めないままで…。
かろうじてぽちぽちと続けているメールだけが、今俺と彼女を繋ぐ唯一のツールだ。
最初のコメントを投稿しよう!