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煌びやかな夜の繁華街。
様々な店舗の看板のネオンが派手に輝き、自分を見てくれと必死で自己主張し合っている。
しかし、そんな繁華街の中心でひときわ輝く色があった。
それは赤。
その赤い光は、せわしなく回転しつづけて周囲に居る者に警告を促しているように見える。
赤く回転し続ける光。
それを取り囲むようにざわつき、ひしめきあう人影。
「搬送急げ!ほら、君離れて!」
「なん……で、何でだよおおおおお!」
その黒山のような人だかりの中から、大声を上げながら数名の人影が飛び出す。
白衣にヘルメットの男達、そして1人の若者。
白衣の男達は赤に濡れた何かを載せた担架を押し、若者はそれにすがりつくように付き添う。
そして、救急車に担架を載せた救急隊員と付き添いと見られる若者は赤い光とサイレンの音を響かせながらその場を去っていく。
ややあって……
黒山の人だかりは何もなかったようにばらけ、夜の雑踏に混じって散り散りに流されていく。
そうして人だかりの掃けた後に、二人の人影が取り残されていた。
「牧山さん……これって、また……ですかね?」
「ああ、また……だろうな」
スーツ姿にトレンチコート。
そのうち牧山と呼ばれた長身の男性が眉間にしわを寄せて質問への返答を口にする。
その眼は、何かによって濡らされたアスファルトへと向けられている。
「普通の自殺ならば説明もつく……だがこれは……」
そう誰にともなく呟くと、牧山はトレンチコートをたなびかせながら踵を返し、スマートフォンを手に取る。
「岡田、お前は先に署に戻れ。俺はもう少し情報を集めてから戻る」
「は、はい」
牧山の言葉に、岡田と呼ばれた青年は駆け足でその場を去っていく。
それを見送った牧山は、スマートフォンの画面に指を置き、使い慣れた様子で電話帳を開いて一つの名前をタップする。
「また、お世話になります……神流さん」
電話帳で牧山が選んだ名前は日高探偵事務所。
通話ボタンをタップする牧山の瞳には、どこか暗いものが差していた……
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