殺意転写 1/ 自らを殺す者

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□□□□□□  淹れたてのコーヒーの香。 壁一面を埋め尽くす巨大な本棚。 室内に置かれている木製のデスクは、どこか社長クラスの人間が座るような立派なつくりをしている。 「やれやれ…」 その立派なデスクへとファイルとコーヒーカップを手に、1人の女性がため息をつきながら歩み寄る。 年の頃なら20代後半。 その長い黒髪は腰のあたりまで伸びており、しっかりと手入れされているのだろうか光を受けて輝いているように見える。 化粧は薄く、端正な顔立ちをしているが、黒縁のメガネの奥の切れ長な目がやけに彼女に冷たい印象を持たせている。 女性はファイルを面倒くさそうにデスクに置くと、これもまた立派な革製のチェアーへと腰を下ろし、一口コーヒーをすする。 「これで、4件目か……やれやれ、いよいよ私らの出番か」 口をへの字に曲げ、先ほどデスクに置いたファイルを開きながらつぶやくその言葉には、心底面倒だといわんばかりのため息が混じっている。 「あ、神流さんおはようございます。今日は早いですね」 「ああ、刹那か……おはよう。いや、昨晩牧山から連絡を受けてな……資料を受け取る為に早く出てきただけさ」 女性、神流は扉を開けて入った来た青年、刹那へと視線だけを向けながら苦笑を浮かべて返事をする。 「牧山さんから……ってことは、また……ですか?」 肩からボディバッグを下ろしつつ刹那は神流にそう尋ねる。 右目を隠すほどに伸びた彼の髪の隙間から向けられる視点は、完全に神流が手にもつファイルへ向けられていた。 「ふむ、正直詳しく調べてみるまではわからんが……ほぼ決まりだろうな。例の不可解な自殺……目星はまだついていないから、まずはお前と遥に調査を頼もうと思う。まあ、詳しい事は遥が来てからにしよう」 「わかりました。じゃあ、あいつが来るまで、事務所の掃除でもしてますね」 「……マメだねぇ、お前は……女だったら良い嫁さんになれたろうに」 再びコーヒーを口に運びつつ、神流は箒とちりとりを手に床掃きから始めた刹那を苦笑しながら見る。
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