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  この街だけではない。他国も、同じ状況に陥っていた。まさか植物に襲われるなんて有り得ない状況に、逃げる隙もない状況に、阿鼻叫喚だった。魔法も効かない植物から逃げる人々、剣や武器で挑むも、動きが複雑の植物に武器を封じられる始末。逃げ惑う人々に、逃げ場はない。火も効き目がない。   キュルキュル。クチュクチュ。   『キュルキュル』という音は、花が血を飲む音。『クチュクチュ』という音は、花が体を咀嚼している音。 世界から、この星から、人が減っていく。植物によって、食べられていく。人が一人もいなくなる迄、いやリール以外の人が一人もいなくなる迄、続いていく。 やがて、世界から、この星から、人間の気配が消えたのが判ると、花は蕾に戻る。地に骨や衣類等を残して。蔓は地に戻る。骨を砕き、粉末にしながら。蟻は、衣類等を細かく裂きながら地に戻る。 「ここの神は、既に罰せられた。新たな神は、別の世界で神の補助をしていた天使族。神は、親から子へ継承する物ではない。有能な者は神に昇格し、有能ではない神は降格されるのが掟。人間だけに甘い神は、当然降格されるのは確実。この星は、人間は不要だっただけ。」 リールは、張っていた膜を消す。 掌(てのひら)に卵を生じさせると、その卵を静かに地に置いた。白くて小さな、卵。 彼の後ろに、穴が現れた。彼が入るには丁度良い高さの、穴。振り返り、穴に入る。穴は、入り口を閉ざしていく。彼は、それを気にする事もなく奥へと進んでいく。穴が入り口を閉ざした後、卵はズルズルと地に沈んでいった。卵の天辺から、苗が生まれた。その苗は、やがては大きく成長していく。枝は、世界を包むように広げたまま。  
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