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言いたい事があっても言わなかったのは、言っても判って貰えないだろう。その思い込みで、リールは、大人を、街を、サラをも憎み恨み嘲笑い、拾われた赤子をも嘲笑った。
サラに言った話。引き取りに来るのは、明日ではなく今日だと言う事を言わなかったのは、言ったところでサラが魔法を放たないという理由にもならないから。八つ当たりのように魔法を放つ。叱られても、父親の名を出せば、大抵の大人は黙る。だからこそ、今日はラッキーな事に策が上手くいった。
サラは、父親に嫌われた。信用を失った。
リールの怪我は、後遺症を残すが完治するだろう。当分、サラは学園でも評価は下がり、生徒からは冷たくされるだろう。
(彼女が大人しい間は、謳歌させて貰うかな。)
彼は、治療を受けながらサラを見遣る。
こちらを、苦々しく睨み付けている。その眼差しは、強くない。父親からの信用を失ったのだ。信用を得る為に、彼女は逆らう事を許されなくなったのだから。
彼は、目線を動かす。祖父を探す為に。祖父は、サラの親と隠れて話し合っているのが見えた。
(嗚呼、謳歌する姿が霞む。)
悪知恵の働く祖父の事だ。どさくさ紛れに、取引を成功させる気でいる。
赤子の取引額を上げて、取引が成功すれば、祖父は金の大半を持って街から逃げる気でいた。孫を残して。
昔から、祖父は金を持ち逃げしては、金が無くなると悪びれた顔もせず舞い戻る。その金が他人の物だろうと関係ない。リールの両親は、祖父に息子を預けて、祖父に連絡先も言わずに二人で祖父から逃げるようにいなくなった。息子を残して。
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