第1章

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 そして、もう一つ、この少年、どっか有働優一と似たタイプだった。可愛いタイプというか、やさしくておとなしいタイプというか。 「志信、典史君」  御形の父に呼ばれて、遠野家の中に入った。  事情は大雑把には分かった。説明しても信じて貰えない場合は、本人に語って貰うしかない。  通された居間には、夫婦と隣の母屋から来たのだろう、老夫婦が居た。敷地内には、母屋のようなものと新築の家があった。今居るのは、新築の家の方だ。  夫婦も老夫婦も、俺に対して、冷たい視線を注いでいる。霊能力者との説明を、御形の父から聞いているのかもしれない。 「黒井という、霊能力者の家の長男で、黒井 典史です」  嘘はついても仕方がない。冷たい視線には、仕事上慣れている。 「まず、確認させてください。遠野さんの祖父母のお宅、隣の家の下には容易に入れますね」  昔の造りの家で、床が高く、床下に薪を入れて置ける程だと思われる。子供ならば、床下をしゃがんで歩けるくらいだった。 「見れば分かる」  祖父は怒っていた。大切な孫の件を、胡散臭い霊能力者に掻き回されたくないのだろう。 「その床下に、海へと続くという洞窟への、陥没穴がありますね」  無言になっていた。 「普段は板で隠していた。その板は、孫が行方不明になった後に確認すると、ズレていましたね?」  夫婦が、祖父母を凝視していた。ここで、嘘を付かれると、後々厄介になる。畳み掛けるか?と視線を巡らせると、祖父がうなずいていた。 「もしも中に入るようなことがあったら、光を目印に出られるように、他の口から出るとしても、帰ってくるまで蓋をするなと教えていた」  蓋のズレは、中に居るという可能性が高かった。 「どうして!早く言ってくれなかったのですか?」  怒りに震える遠野夫婦。 「直ぐに確認されています。何度も、何度も洞窟を歩いて確認したが、見つける事はできなかった」  出された茶を媒体に、祖父の過去を見た。間違いではない。 「洞窟が迷路のようで難しいのを、知っていた。家族を、ましてや他者を遭難させたくなかった」  祖父が、俯いて何度もうなずく。 「でも、それでも、自分で探したかった!」  父親の言い分も尤もだ。 「御形、どこかに居るか?」  小声で御形に問い掛ける。 「仏壇の前で、正座している」  俺は、ポケットに入れて置いた灰を取り出して、仏壇の前に振りかけた。 「兄さん?」
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