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一穂が跡取りと、決まっていたとは知らなかった。
「すごく綺麗だ」
言葉が、金のネックレスのようだった。だから、どこかで見た神様の絵には、金が多く使われていたのかもしれない。
「…綺麗なんだ」
「金の細い線が、螺旋になって天に向かって伸びている。すごく綺麗だよ」
御形が、顎に手を当てて暫し考え込む。
「お経、習っておく」
克己の姿が、徐々に消えてゆく。成仏して欲しい。
「御形、光へ向かったか?」
実体化していないと、俺は霊が見えない。
「行った。最後にこっちに頭を下げていたよ」
良かった。
でも、まだ問題が残っていた。
「この土地では、洞窟で丑の刻参りをするのですか?」
祖父が何か言いかけたが黙る。息子が、俯いてから顔を上げた。
「古くからの伝承ではありませんが、近年、海の近くの洞窟で、藁人形を見つけるという事例が幾つもありました。子供の遊びで、洞窟の中に祠を造ったからではないかと、地元では推測しています」
『止まれ』の目印の寺社マークか。
「それでは、その祠の中で、壁に刻まれた祭壇のようなものがある場所を教えてください」
遠野の父親が、地図を描いてくれた。
「料金は別に払いますので、息子を突き飛ばした女性は分かりませんか?」
基本、犯人捜しは行っていない。霊能力で犯人が分かったとしても、警察では裁けない。
「分かったら知らせますが、基本、分かったら警察に自首させます。料金は、御形家に任せていますので、相談してください」
うまい説明はできないが、人探しで料金を取るつもりもない。偽でも霊能力者で、対応しているのは霊限定だと思っている。
人探しでは、霊能力者ではなく、超能力者になってしまう。
「御形のお父さん、暫く、克己君の供養をしていますよね?海を見てきてもいいですか?」
俺には笑ってうなずいた御形の父が、きっと御形を睨む。
「志信、危険なことをさせるな。典史君、行ってもいいよ。二時間で戻っておいで」
不服だが、御形の監視付で、海へと向かっていいことになった。
まず、気になるのは、祭りがあった寺社。訪ねてみると、そこそこ大きな寺社ではあったが、観光客は全く無く、犬の散歩の人だけが歩いていた。
奥ノ院とペンキで書かれた土手の壁面に、鎖で閉じられた木の扉があった。近くの立札を見ると、海へと続く洞窟で、非常に複雑で迷路のようになっているとある。
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