第1章

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 一穂が跡取りと、決まっていたとは知らなかった。 「すごく綺麗だ」  言葉が、金のネックレスのようだった。だから、どこかで見た神様の絵には、金が多く使われていたのかもしれない。 「…綺麗なんだ」 「金の細い線が、螺旋になって天に向かって伸びている。すごく綺麗だよ」  御形が、顎に手を当てて暫し考え込む。 「お経、習っておく」  克己の姿が、徐々に消えてゆく。成仏して欲しい。 「御形、光へ向かったか?」  実体化していないと、俺は霊が見えない。 「行った。最後にこっちに頭を下げていたよ」  良かった。  でも、まだ問題が残っていた。 「この土地では、洞窟で丑の刻参りをするのですか?」  祖父が何か言いかけたが黙る。息子が、俯いてから顔を上げた。 「古くからの伝承ではありませんが、近年、海の近くの洞窟で、藁人形を見つけるという事例が幾つもありました。子供の遊びで、洞窟の中に祠を造ったからではないかと、地元では推測しています」  『止まれ』の目印の寺社マークか。 「それでは、その祠の中で、壁に刻まれた祭壇のようなものがある場所を教えてください」  遠野の父親が、地図を描いてくれた。 「料金は別に払いますので、息子を突き飛ばした女性は分かりませんか?」  基本、犯人捜しは行っていない。霊能力で犯人が分かったとしても、警察では裁けない。 「分かったら知らせますが、基本、分かったら警察に自首させます。料金は、御形家に任せていますので、相談してください」  うまい説明はできないが、人探しで料金を取るつもりもない。偽でも霊能力者で、対応しているのは霊限定だと思っている。  人探しでは、霊能力者ではなく、超能力者になってしまう。 「御形のお父さん、暫く、克己君の供養をしていますよね?海を見てきてもいいですか?」  俺には笑ってうなずいた御形の父が、きっと御形を睨む。 「志信、危険なことをさせるな。典史君、行ってもいいよ。二時間で戻っておいで」  不服だが、御形の監視付で、海へと向かっていいことになった。  まず、気になるのは、祭りがあった寺社。訪ねてみると、そこそこ大きな寺社ではあったが、観光客は全く無く、犬の散歩の人だけが歩いていた。  奥ノ院とペンキで書かれた土手の壁面に、鎖で閉じられた木の扉があった。近くの立札を見ると、海へと続く洞窟で、非常に複雑で迷路のようになっているとある。
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