第1章

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 ペットボトルの水を媒体に、過去を見る。 「御形…行方不明の中学生は、遠野じゃないかも…」  後で直哉に確認して貰うが、洞窟のどこかから、中学校のジャージを着た少年の記憶が見えた。その微かな姿は、先ほど成仏した克己では無かった。  位置が遠すぎて鮮明ではないが、洞窟の中で滑り落ちたような恰好のまま、永遠のように眠っている。正確には、直哉の透視か、千里眼で確認して貰うしかない。 「調べておく」  木の扉は、人が用意に入り込まないようにしたのか、岩に固定されつつ、賽銭箱で封もされていた。賽銭箱を動かしてみようとしたが、かなり重くピクリとも動かなかった。  賽銭箱の中に、岩か鉄でも入っているのかもしれない。  管理人が居るわけでもないので、ここで中から助けを求めても、見つからなかった可能性は高い。でも、落ちた感覚があったので、救けすら求められなかったかもしれない。  犬の散歩も、庭までで、寺社の裏までは来ない。寺社の裏側には、木々も茂っていて、薄暗い。一人では歩きたくない場所かもしれない。  表に回ると、寺社の庭には、沢山の梅の木が植えられていた。寺社に貼られている日程表によると、春には、梅まつりがあるらしい。  そのまま、海へと歩いてみると、寺社から海までは五百メートルといったあたりだった。  ずっと下りだった気がするので、寺社が高台にあるのかもしれない。  季節外れで、海には誰も居なかった。ふと、御形が手を繋いできた。 「…御形」  人目があったらどうする、と、言おうとしたが、御形の笑顔に黙ってしまった。  御形、確かに二枚目だ。すごく、かっこいいやつだ。  人目を避け、海辺の斜面の岩場に隠れてキスをした。  耳元に、御形の呟きと波音。 「好きだ、御形」  何度も、好きと言われたい。その言葉を聞くと、心が温まる。 「もっと、好きと言って、御形…」  自分が言った言葉に、驚き照れてしまった。本音を言うつもりは無かった。  霊能力者と言う度に向けられる、冷たい目には慣れているけれど、やはり辛い。御形の肩に顔を埋める。御形が子供でもあやすように、肩をポンポンと叩いている。 「頑張ったよ、黒井は」
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