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御形、遠野家が俺に向けていた、冷たい視線に気が付いていたのかもしれない。霊能力者は偽だが、克己が成仏したと知ると、家族は本気で感謝はしてくれた。でも、一緒に喜んでPRするほど、俺は嘘は付けない。成仏できない霊には、罪がある。
岩場だと思っていたが、風が吹いている。後ろは洞窟なのかもしれない。
「好きだよ、黒井。何度でも言ってやるから…」
俺は御形の肩に顔をうずめる、玲二が言っていた、罪を持たない生き方なんて糞だ。それは、正しい、けれど…
俺の暗い心を見透かすように、御形が俺の耳元でクスクスと笑う。
「黒井が俺に甘えるなんて、珍しい」
「ダメか?」
服の中に入ってきた手が冷たい。冷たいのは嫌だと、身を捩って逃げようとすると、更に強く抱き込まれる。服のボタンを外されてゆく。寒い、けれど、止められない。
「うれしいよ」
胸の突起を御形に甘噛みされる。ビクリと体が跳ね上がった。
「いい感度」
驚いただけだと言い返そうとして、又キスがやってきた。歯と歯がぶつかり、キスを止めて互いに笑う。焦らなくても、相手は消えたりしない。
ベルトに手が掛かったところで、岩の奥から小さな声が聞こえた。
「うううううう」
泣き声なのか、唸り声なのか?思わず御形と顔を見合わせた。
「泣き声のする洞窟は、ここか?」
岩の奥に、暗く奥へと続く闇があった。ペットボトルを取り出すと、洞窟の過去を見てみる。沢山の人の思念があり、個人を特定できない。
霊は見えないが、黒いものが近付いてくる。闇なのか、悲しみや憎しみの塊なのか、冷たく黒い。
俺は咄嗟に、翼を広げ、御形ごと囲った。翼の中は、結界となる。
「ぐああああ」
何かの叫びが聞こえた。それは、耳から取り込んだ時は小さく、頭の中で轟音となる。
「音であっても、俺の結界内で存在を許さず」
翼の中は俺が主、絶対だ。頭の中の轟音は鳴り止んだ。
「あれは犬だね」
御形が冷静に分析していた。
「もしかして、ここ、犬猫の捨て場にしていたのか?」
犬猫、人間以外の生命体は、霊になって残ることは少ない。精一杯生き、そして死ぬ。その行動は、微塵の躊躇もなく自然で、何かを恨まない。
捨てられる、人を信じていたのに、捨てられる。死ぬことより、捨てられたショックに泣くモノ達。とても哀しい。
「成仏させられるかな…」
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