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実体化したら、大変な匹数になりそうだった。しかも、光に向かえをどう説明したらいいのか分からない。
霊に対し無敵に強い、兄弟子の玲二に頼んだら、激怒するだろう。いつも無償で使ってしまっているから。
「恭輔、いるか?」
俺の亡くなった従兄で、守護霊の恭輔を呼んでみた。
「何?」
守護霊も霊なのか、俺に姿は見えないが、言葉だけは聞くことができた。
「洞窟の中、成仏できるかな?」
「ああ、獣ね。できるよ」
恭輔の回答があっさりし過ぎていて、意味を考えてしまった。
「どうやって?」
「それは、モココ来い!」
モココは、御形家で飼っている狛犬だった。モココならば、犬猫と話せるのか、そう、思った瞬間、モココがどさりと空中から落ちてきた。狛犬も犬なのだろうが、非常に鈍く、頭が砂に刺さっていた。足をばたつかせているが、なかなか起き上がれない。
「どっから来た?」
御形が、慌ててモココを砂から掘り出した。
「ワン」
御形の顔を見て、嬉しそうに尻尾を振るモココだった。
「モココ、この洞窟の子たち。光へと送れるか?」
モココが、じっと俺を見る。モココは、俺が可愛がっている、もこもこという狛犬の子供だが、どうも俺には冷たい。
ふんと、モココが顔を背け、御形の腕の中で丸くなった。
「モココ、俺からも頼む」
「ワン」
モココ、御形の頼みならば、聞くらしい。モココが御形の腕から飛び降りると、洞窟の中に入り、長く吠え続けていた。やっと出てきたと思うと、顎で俺に中に入れと促した。
洞窟の中に入ると、黒い塊が洞窟の壁面にびっしり張り付いていた。
黒い影が一つずつ、何をされたのかどうして哀しいのか訴えてくる。
俺も哀しかった、霊に対し何もできる能力がない。こうして話を聞き、共に泣くことしかできない。洞窟の中で、胡坐をかいて座り、じっくりと話を聞いていた。
訴えを聞きながら、俺は泣き続けていた。やがて、モココがやって来ると、良くやったとでも言うように、俺の頬を舐めた。どうやら、全部の哀しみを聞き終えたらしい。
「成仏したよ」
御形が、俺を抱きしめる。御形の横で、モココが胸を張って立っている。
「モココ、凄いよ、お前」
モココ、空間を飛び越えて来てくれたのだ。俺も、モココを抱きしめた。
第三章 海の祠3
二時間が過ぎようとしていたので、慌てて遠野家に戻ると、御形の父が帰り支度をして待っていた。
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