第1章

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 外から遮断されている、小さな浜。上を見上げると、崖。崖の上には、少し木々が見えていた。  海水も水なので、媒体にして過去を見る。探している五年前の過去。  祠は、『止まれ』の記号。でも、これは『止まれ』ではないだろう。  小さな浜に、有働の姿。そして、多分音楽教師。二人が抱き合っていた。音楽教師には、家族が居る。子供も居る。  中学生が見ていた。そして、『止まれ』の記号を残した。  この浜に来てはいけない。先生を許してはいけない。  この清廉潔白な感情は、よく分かる。受験という勉強に特化してゆく時期、全てを排除する時期、ストイックな時期での先生の恋愛はある種の軽蔑を生み出す。 「直哉、やっぱり怖いか?」  海を見ないようにしている、直哉が居た。俺も、こんな商売をしているのに、ゾンビが怖い。無理はしない方がいい。 「蓮と合流するか」  元来た道を、戻る事にした。  待ち合わせ場所の、蓮の祖母の家に行くと、既に蓮が到着していた。 「遅い」  御形が、玄関の前で腕組みして待っていた。あれこれ道具も揃えて置いてあった。 「蓮、俺達、洞窟の調査をしてくる、後で、事情を教えて」  蓮は、風邪を引いたという祖母の看病をしていた。 「分かった」  祖母の具合が悪いのならば、宿泊せずに帰った方がいいのかもしれない。  直哉の透視で、地上から洞窟を辿る。そもそも、透視能力があるのならば、足場が悪く暗い洞窟の中を、わざわざ探す理由はない。 「野島の死体は、ここの地下にある」  付いてきていた御形が、GPS情報を記録する。  又、洞窟を辿り歩きだしたが、なかなか有働の形跡を探す事ができなかった。直哉は以前に、千里眼で有働を探し当てていて、その場面は分かっているようだが、その場面がどこに該当しているのかが分からない。  直哉の千里眼は、見えているだけなので、意識を歩かせて周囲も見てくるのだそうだ。しかし、見てきた周囲が、洞窟の中しかなかったのだ。  どこをどう歩いたのか?全く分からない。歩き続けて海まで来てしまい、暫し休憩とすることにした。  午後は、野島の位置は分かったので、山上と洞窟の中に入ってもいい。 「御形、有働の位置。全く違うのかもな。寺社から続く洞窟だと考えていたけど、最後の記憶がそこだということだけだし」  冷静になって、考えてみることが重要なのかもしれない。
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