第1章

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 扉は開けて貰えないだろう。 「俺と、野島が入ったところから出発しようか」  しかし、その入り口は無くなっていた。穴は、使われていない古い民家の後ろにあったのだが、民家が取り壊されていた。工事の際に、陥没穴を塞いでしまったらしい。きれいな更地になっていた。 「後は、クラスメートの家のガレージか…」  最近、建て増しされた家のガレージに陥没がおき、洞窟へと繋がっているらしい。  山上は学校を休んでいたので、訪ねるのは嫌だったようだが、他は海から入るか、さらに山側の遠山家の下から入るかになる。山上は、遠山家の下からは、洞窟に行った事が無かった。  訪ねた家には、息子が留守番をしていた。山上の姿を見て驚いたようだが、事情を話すと、親に相談させてくれと言い出した。相談したらダメと言われるのは決まっている。 「ごめん、勝手に使う。もしも、何かあったら、知らなかったと言ってくれ」  俺達は、板とブルーシートで塞がれていた穴の中へと入り込んだ。  洞窟の中は、全く光が無く、想像以上に歩行が困難だった。ヘッドライトの光が届く範囲のみ見えるのだが、全容が把握し難かった。  足場も悪く、足元を見てから進まないと何があるか分からない。 「俺達の記号は、緑の蛍光のペイントの下にある。ここでは決まりがあって、他チームの記号は決して消してはいけない」  分岐の他にも、後何メートルで何がある等の目印も記入されていた。何も無い洞窟を歩いていたら、恐怖でいたたまれないのかもしれない。各ペイントを見ると、安心した。 「俺、黒井さんと雑賀さんの居る高校に進みたいな」  そうか山上は受験生だった。 「遠いだろう」  通学するには、やや遠い。  分岐の箇所に到着すると、寺社の方向に進んだ。野島は、寺社の比較的近くに居るはずだった。  暗闇を進むにつれ、方向感覚が麻痺してきた。足場の悪さと、洞窟が真っ直ぐではないことで、既にどちらが海の方向かは分からない。 「この近くの下だね…」  直哉が立ち止まる。下、どこかに、下に続く穴がある。足取りを遅くして、下を見ながら進んでいると、崩れた岩を見つけた。  そっと岩に近寄ってみると、斜め下へと伸びる隙間を発見した。  蛍光灯を出すと紐をつけ、穴の中へと落としてみた。灯りが無ければ、直哉の千里眼も充分に力を発揮できない。 「三メートル」  ロープに目盛を付けておいた。
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