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「奥に三畳くらいのスペースがある。そこにジャージが見える」
学年別に色分けされた、緑のジャージ。
「行ってくる」
ロープを岩にくくりつけると、自分の体にも巻いた。ロープで、更に下があった場合、落ちるのを防ぐ。
やっと体が入るくらいの隙間を滑り降りると、あちこちをぶつけ、手袋もしていたが、手も激しく切れていた。背も切れた気がする。
でも、ここを滑り落ちただけでは、即死にはならない。
ジャージに近寄ると、温度が低いせいか腐敗は少なく、さっきまで生きていた人間に見えた。
頭に大きな傷があり、その傷が首にまで伸びていた。出血多量だったのだろうか。顔が真っ白に見えた。
「直哉、こっちのロープを引き上げて」
蛍光灯のロープに、野島を縛った。内部の様子や、野島の様子を何枚もの写真に残す。フラッシュの度に浮かび上がる洞窟の中は、見ている世界と、全く異なっているようにも見えた。
誰かを呼んだ方がいいのは分かっているが、早く野島を家族の元へ返してあげたい。俺は、霊が全く見えないが、こんな暗い場所からは、早く出たいと思う。
野島を引き上げてもらうと、俺は自力で斜面を登った。
「恭輔、居るか?」
守護霊の恭輔を呼ぶと、山上が悲鳴を上げていた。何か見えるのかもしれない。
「ここ、携帯電話が掛からない。恭輔、蓮に連絡して、ここに警察を呼んでくれ。仲間を探しに来た中学生が、遺体を見つけたとね」
守護霊は、決して電話の代わりではないが、つい使ってしまった。
「あのね、守護霊は、守護が仕事ですよ」
恭輔は、文句を言いながらも蓮の所へ向かったらしい。
「直哉、山上に付いていて。俺、遠野が落ちた海を探してくる」
「一人は危ないよ」
山上は止めたが、俺は歩きだしていた。
一人(直哉は居ても構わないが)になれば、翼が出せる。翼は光を帯びていて、多分蛍光灯よりも明るい。
明るいが、翼を実体化してしまうと、狭い場所では動き難い。翼を、何か所もぶつけてしまった。実体化を解くと、光は半分に減ってしまった。どちらが良いかで迷うところだ。
寺社の近くを通り掛かると、何か声が聞こえた気がした。洞窟の中の湿気で、過去を呼んでしまったらしい。
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