第1章

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 何故、こんな時に死んだのだ。有働の体には、ロープの跡。別れ話がこじれたのだ。有働は、もう別れようと言った。嫌だった、可愛い後輩だった、気が付いたら、相談相手からもっと信頼されたくなり、恋に落ちていた。  なのに、別れようなんて言うから。  怒りに任せて縛った挙句、抱いてしまった。その後、行方不明の話を聞いた。  不審死で、解剖なんてされたら、どうなる? 愛し合ったばかりの体で、洞窟なんて向かって。  俺には、妻も子供もいる。学校にも、関係を知られたくない。相手は誰だと、詮索されたくない。  死体を探して運んだ、田中の思念だった。  何故、田中が死体を隠したのかは、何となく想像できた。この田中の思念を辿ってゆくと、海へ抜けていた。 「あっ」  御形と目が合った。田中の思念を追ってしまったので、先ほどの、有働発見の場所の近くに来てしまっていた。  探していたのは、遠野が落ちた場所だった。洞窟に戻ろうとすると、走ってきた御形に腕を掴まれた。 「何で、一人なんだ?」  御形に、説明をしていなかった。山上旅館のこと、野島のことを手短に話した。 「でも、一人は危険。俺も行く」 「御形。まだ、警察に呼ばれているだろう?」  警察が、こちらを見ていた。 「終わった」  終わったはいいけど、洞窟の中に消えてゆくってのは、どうかと思う。 「君たち」  ああ、やっぱり不審だろう。 「帰るなら乗せてゆくよ」 「大丈夫です」  御形のスマイルが炸裂していた。  再び洞窟の中に戻ると、今度は、遠野の思念を探す。  入ってみて分かったが、この洞窟を一人で歩くというのは、すごい度胸だった。  ライトが無かったら、恐らくこの洞窟から出られなくなる。 「なあ、御形。今日、蓮の祖母の家に泊まらずに帰るか?」  具合が悪いのに、泊まったら申し訳ない。幸い、野島と有働は見つけている。後は、遠山の件だけだ。日を改めてもいいかもしれない。 「それでも、いいよ」  水が多いので、あちこちから過去が見える。その中から、遠山のものを探していた。  ガツン、頭に大きな衝撃があった。 「痛い」  ぶつけたか?頭を押さえたが、何も無かった。 「どうした?黒井」  御形がライトを俺に向ける。俺は、翼があるので、ほんのり明るい。続けて、ガツン、ガツンと頭に射すような痛みが走る。次に心臓に痛みが来た。 「これは…呪いだな」
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