第1章

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 俺達は、普段から同業者と一緒に居ることが多かったので、すっかり忘れていたが、山上は普通の中学生だった。  この内容を、山上は聞き、田中の息子に質問してしまっていたのだ。しかも、遠山家にまで、何故かこの情報と、調べている俺達のことが伝わってしまっていた。  田中の家に、遠山の祖父が乗り込んだと御形の家から連絡があったのだ。 「まずかったな、山上を家に帰そう」  御形が苦笑いしていた。何かと問題を起こす山上は、基本、話題になりたい人間なのかもしれない。おまけに、口が軽い。 「田中の家に行くか」  俺が、山上を軽蔑するなんて言っているし、既に嫌われているならば、嫌われるということも怖くはないのだろう。 「ごめん」  山上は、謝ってきたが、もう信用することはない。 「謝るのはこっちだ、すまなかった。巻き込んで」 「あの…」  俺は、バイクに跨った。 「御形、蓮のところにヘルメットがあったから、使っていいってさ」  祖母が、スクーターを乗る時のものなのだそうだ。かわいいピンク色だった。 「直哉、行くぞ」  仲間以外には、事件は言わない。鉄則だった。本当に失敗した。  後ろに御形を乗せて、田中の家に行くと、玄関で遠山の祖父が怒鳴っていた。  道端にバイクを停めると、走って遠山の祖父の元へ行く。 「遠山さん。止めてください」 「孫を返せ!」  止める腕を振り払い、遠山の祖父はドアを殴っていた。 「警察を呼ばれます、冷静になってください」  御形は、真剣に嗜める。 「孫を殺したのだぞ、警察はこいつらを捕まえろ」  ゆっくりと、御形が遠山の祖父を玄関から遠ざける。 「そういう仮説がある、ということです。まだ何の実証もありません」  御形が、淡々と説得している。しかし、どこから情報が漏れたのだろうか。山上は、遠山の家など知らなかっただろう。  御形が、遠山の祖父から、情報の入手経路を聞き出すと、電話があったのだそうだ。名前は名乗らなかったが、男性の声だったとのこと。用件だけで、切れた電話。信じる事はできないと思いつつも、告げられた事実はどれも、見て居なければ分からないようなことばかりだった。  誰だろう。該当者が分からなかった。  考えながら、斜面に建てられた田中の家を見上げていると、二階のカーテンから少年がこちらを向いていた。
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