第1章

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 冷めた、暗い瞳の少年。どうも気になる。俺は、ペットボトルの水を取り出し、媒体にして過去を見た。  遠山に電話を掛けたのは、この少年だった。田中が車に挟まれて亡くなった時に、助手席に座っていたのも、この少年だった。  でも、心を閉ざしていて、過去も容易には見えない。もしかして、両親のしたことに何も感じなかったのか? 「違うよ、罪を裁いただけだよ」  ふと、耳元で声が聞こえた。しかし、振り返っても誰も居なく、強い風だけが拭いている。  海からの強い風、別荘のような建物。ここは別荘地なのかもしれない。普通に住むには辺鄙過ぎるが、ここでならピアノを弾いていても苦情は来ないのかもしれない。  リクエストしたわけではないが、田中の家からピアノの音が聞こえてきた。先ほどの少年が弾いている。 「ピアノなんて弾きやがって」  遠野の祖父の怒りが、また復活しそうだった。 「これは、俺達へのメッセージですよ」  上手なのか下手なのかも、俺には分からないが、多分、非常に正確で微塵も自分の感情を入れない人間性。 「何のメッセージだと言うのだ?」 「罪は許さない」  たいして年は違わないので、俺が言えることではないが、潔癖な時代はある。罪を許せない時期というのもある。  罪は誰にでも存在し、自分で認めるものなのだ。他者が罪を裁いたとしても、恨みの連鎖が止まらない。 「人間相手は、結構難しい」  俺達は、遠山の祖父を家に戻らせると、暫し、疲れ切って、田中の家の前の道路から海を見ていた。 「全くだ。これからは情報が漏えいしないように気を付ける」  御形に責任は全く無いのだが、一番、気にしていた。やはり、御形の家の相談事も秘密第一があるのだろう。御形に手伝って貰うのならば、俺も周囲にも気を配らなくてはならないと思う。  海の彼方にある、太陽が水平線に伸びていた。  もうすぐ日が沈む。崖の上に建てられたような家だった。夕日を浴びると、絵の世界のようなオレンジの世界になっていた。  田中の妻が帰宅して、こちらを不審そうに見たが、夕日を見ているだけと判断したらしく中に入って行った。 「やっぱり、あの人か?」  御形が夕日に背を向けた。 「ああ」  俺も、飲む振りをしてペットボトルを持っていた。洞窟の中で、藁人形を打ち込んでいる姿が見えた。 「でも、藁人形は丑三つ時だろう。遠山克己は昼に洞窟だっただろう」
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