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布団を敷いたが、全員一緒とはいかず、二名ずつに分かれた。
「俺、蓮と一緒」
俺が、蓮の部屋に行こうとすると、御形が止めた。
「俺が、蓮のところに行く。直哉と、黒井のいつものコンビで寝ていろ」
御形、蓮と話をしてみたいのだろう。素直に従うことにした。
しかし、俺と直哉の組み合わせで大人しくしていろというのは無理だった。
夜になって周囲が静かになったせいか、波音が聞こえていた。部屋には、並べて布団が敷かれていたが、当然、布団には入っていない。
「直哉、田中はどうしている?」
昼、窓から見ていた少年が気になる。画像を共有するために、直哉の手に自分の手を乗せてみる。胡坐かいて座り、座禅をしているかのように目を閉じた。
「…真っ暗だ」
暗い部屋に、少年が立っていた、こちらの気配に気が付いたのか、笑ったように白い歯が浮かんだ。
『大丈夫。ちゃんと制裁できるよ。天使たちが心配しなくてもいい』
田中からのメッセージが聞こえてきた。天使たちとは?何か勘違いしている。少なくとも俺は、制裁なんて望んでいない。
「何か、嫌な感じがするな…」
直哉が、田中の家の中を千里眼で見ていた。グランドピアノの下で、倒れている女性。そして、少年が、家の外へと歩きだした。
「行くか?」
パジャマの代わりにジャージを着ていた。ジャージから着替えると、そっと玄関から靴を取ってくる。音がしないように窓を開けると、外に飛び出した。
御形に言えば、一緒に行くと言うだろう。でも、これは天使が呼ばれている。多分、霊能力者での活動ではない。
直哉と、バイクを押して遠ざかる。充分に離れるとエンジンを掛け、バイクで走り出した。
田中の家に到着すると、直哉が透視で家の中を見る。そこには、少年の姿は無かった。
「どこに居る?」
暗闇の中、直哉の目だけを頼りに探すと、崖の上に人影を見つけた。
柵も何も無い崖の上で、少年は、遠くを見ているようだった。
海には光は無く、闇になっていた。耳元には、絶えず強い風音と、波音だけが響く。
「田中?」
影に呼びかけてみたが、振り返りはしなかった。足場が悪く、海中電灯で照らしながら進む。
「やっと、天使がやってきた」
もしかして、天使とは俺達のことなのか。
「父も、母も、罪を背負っていながら、嘘ばかり付くんだ…」
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