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男同士の嫌悪というよりも、受験生の担任が、こんな時に恋愛していたという、裏切感があった。許せなかった。こんな先生を許せないと思った。
有働先生の恋愛の噂は、瞬く間に広まっていった。こんな先生、居なくてもいい。どうして、そこまで思いつめたのか、その時代に居た者しか分からない感情だった。
先生と仲が良いふりをして、洞窟の情報を流す。重要な事は、誰も教えない。
ほんの少しの悪意だった。
有働先生が居なくなり、罪悪感が増していた。そこに、設置した祠が消えたという、小さな事件が起きた。それだけならば、誰かが海に落としたのかもしれない、こんな場所に置いてと大人が怒ったのかもしれないと、気にしていなかった。
でも、似た祠が、又設置された。そこから、何か疑惑が湧いてきた。
祠には、後ろに、当時設置したメンバーのサインが小さく刻まれていた。新しく、設置された祠には、それが無かった。
サインを知らない人間が、何かに祠を使用したのだ。罪の意識が、倍増する。
有働先生が消え、その消えた日から数日内に祠が消えた。何か、きっと、あったのだ。
蓮の過去の罪悪感。
目が覚めると、朝だった。手が、温かいと思うと、一穂が手を握っていた。直哉の手も握り、手を繋いだ状態で、一穂がうとうととしていた。目覚ましをみると、まだ、起きるのには早い。
俺は、怪我の治りも速いが、病気が治るのも速い。それに、今回は本当に風邪で、悪意に接したからという訳でもない。でも、一穂の温もりは、心まで染みる。
「一穂、そこで眠ると風邪をひくよ」
一穂が、薄っすらと目を開く。
「一緒に寝るか」
布団を上げて、隣の位置をポンポンと叩いて示すと、一穂の頬がピンクになった。
「典史兄ちゃんと一緒に寝る!」
一穂が、俺に抱き付いたまま、眠ってしまった。温かい、俺も、眠ってしまった。
一穂を探す声で目が覚めた。風邪はすっかり治っている。又、一穂、蔵で遊んでいるのだろうか?
「直哉、起きている?一穂、探してくれる」
御形の声に、直哉が起き上がる。
「分かった…」
直哉も、風邪は全快しているようだった。
「ここ」
直哉が指差した方向を見て、俺は布団をまくり上げた。
「一穂?」
忘れていた。俺にしがみ付いて、眠っている一穂がそこに居た。
「母さん、一穂見つかった!」
「すいませんでした。俺が、ここで眠っていていいと言いました!」
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