第1章

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「成仏できるように、なるべく、離れていてください」  蓮が、有働に何か言葉を掛けていた。俺は、実体化以上のことが出来ない。 「ありがとうございます」  最後に有働が、俺に笑いかけた。 「…私たちは、田中さんを責めません。今の優一で決めました。事故で終わりにします。それに、もしかしたら孫に会えるかもしれません。探してみます」  有働の父親が、どうしても受け取ってくれと、封筒を置いて去って行った。 「ダメだ、今日は仕事にならない」  蓮も疲れ果てていた。 「事故を起こさせた原因は、俺達にあったよ。その罪の意識は、一生、消えないな…」  蓮が、封筒を開けずに俺に渡してきた。 「典史、それは、3人で分けておけ。俺は、受け取れない」  蓮は、本日休業の札を出すと、さっさと店を閉めてしまった。 第七章 風刑の島3    夕食前に、御形の家に戻ってしまった。恐る恐る御形の部屋の前を通ると、御形も家に帰ってきていた。  どう考えても、俺が御形を怒らせている。もう、最初から謝るしかない。  制服から着替えると、御形の部屋をノックした。 「御形、入っていいか?」 「どうぞ」  御形、参考書を読んでいた。御形、真面目な面も多いと、同居して改めて知った。  いつもは、御形が俺の部屋に来ているので、未だに御形の部屋が珍しい。整理整頓されている、真面目な部屋。居心地が悪くて、やはり自分の部屋で話そうかと、席を立ちかけると、御形がお茶を入れてくれた。 「どうぞ」 「…どうも」  日本茶というところが、御形らしい。 「風邪はもう治った?」 「完治」  お茶を飲むと、体が温まる。しまった和んでいる場合ではなかった。 「ごめんなさい」  最初から、謝っておこう。 「その、ごめんなさいは、どれのかな?」 「海に飛び込んだところ、迎えに来てくださり、ありがとうございます」  御形の笑顔が消えていた。 「田中のキスって何だ?」  昨日の夜のあらましを、御形に説明する。そこで海に飛び込んだ後に、田中にキスされたことも正直に話した。  今日の、蓮の店での出来事も説明した。 「黒井、田中にキスさせたのか?」  キスをさせたという訳ではないが、海の中で田中の傍から離れるわけにもいかなかったのだ。 「…させたというより、避けられなかったというか」 「黒井…俺の恋人だという自覚あるか?」  自覚はある、と、思う。
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