第1章

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 御形が、田中の名前を聞いて、顔から笑みが消えていた。最初から舌を入れて、御形がキスをしてくる。絡まる舌に、心臓がバクバクしてきた。 「ストップ御形」  これ以上したら、人前に出られなくなりそうだった。 「俺も田中君に会いましょうかね…」  御形、まだ、怒っている。  居間で待っていた田は、昨日の詫びだと菓子折りを持ってきていた。隣に田中の母親も座り、丁寧に礼を述べていた。  母親も無事で何よりだった。 「黒井先輩、二人きりで話してもいいですか?」  御形が身構えた。 「ここで、話せないことか?」  田中、どこか飄々とした雰囲気だが、どこにでも居る中学生にも見えた。 「まあ、いいでしょうかね。俺を助けたのだから責任を取ってくださいね。まず、当座、俺は黒井先輩と、雑賀先輩を助けることを、生きる目的にしました」  どういう目的なのだろうか。 「俺は、風が読めます。そのことを、忘れないでください。助けますから」  それはいいよと断ろうとして、直哉が入ってきていた。 「助けなくていい。代わりに友達になろう」  直哉、田中に弟の影を見ているのかもしれない。能力を持ったが故に、孤独を抱えているだろう面が似ていた。 「友達になってもいいのですか?それは、嬉しいな」  田中が笑った。どこか大人びているが、笑うとまだあどけない。 「よろしくお願いします」  人間離れした友達なんて欲しくない。でも、笑う田中を見ていると安心する。自分の生死をかけて、善悪なんて決めなくてもいい。  田中が親に連れられて帰ってゆくと、何だかやっと終わった気がしてきた。風も海も、もう誰も罰することはない。 「あっ、もうひとつ遠野家があったっけ」  事件の真相をどう説明しようか。 「それならば、親父が上手く言ってくれているみたいよ。もう、恨む事を忘れて生きるようにとかね」  何故、遠野が、洞窟で有働を探したのかは分からないが、それぞれに正義だったのだろう。周囲が見えない正義というのが、中学時代にはあるものだ。 「食事にはまだ間があるし、御形、一緒に風呂に入ろう。直哉でもいいのだけれど」 「俺が、黒井と入ります」  今日は、誰かと一緒に風呂に入りたかった。 「俺、後で、一人で、ゆっくり入るよ」  直哉は、俺の目論見が分かっているようで、避けるように部屋に帰ってしまった。
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