第1章

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 女性の説明によると、孫には失踪する前に悪い噂があった。生徒の親とデキしまったとか、生徒とデキているとかの類だった。噂だと信じていたが、失踪した時期に生徒も一人失踪し、駆け落ちとの噂になった。それを激怒した女性の亭主(有働の祖父)が探すなと言ったのだ。その亭主が亡くなり、やはり孫の行方が気になってしまった。  女性の言葉に嘘は無かった。俺も、もう一つ気になっていた謎が解けた。  奥ノ院は、迷路の中に在ると言った生徒は、何故、自分達は迷わずに行けるのか教えなかったのだろうか。それは、デキているの噂に、何か信憑性があり、生徒として先生を不審に思っていたのではないか。 『先生なんて居なくなってもいい』その気持ちが、迷路の攻略を教えなかった、生徒たちの気持ちなのかもしれない。  そして、祭り、肝試しに使用される洞窟なのに、何故、今も死体がそのままなのか?  女性は地図を握り締めながら、礼を言って出て行った。  探すのか、探さないのかは本人の意思だ。女性が遺体を探さなかったとしても、仕方がない。少なくとも、女性の息子夫婦は、自分達の子供が失踪でもいいので生きていて欲しいと願っているだろう。  あの女性には、生きているという願いを消すことは、きっと出来ない。  問題は、もう一つ、蓮のこの狼狽ぶりより、この事件?を知っている。 「…蓮?」 「今日は言えない、週末に御形の家に行く。その時に話す」  やはり、蓮は何かを知っている。  残りの客の相手をすると、蓮は、何も説明せずに帰宅してしまった。  俺達、俺と直哉は、御形というお寺の部屋を借りて一緒に住んでいる。占いの館が十二時まで営業しているため、アルバイトから帰ると一時近くなる。  御形家は、俺達をとても大切に扱ってくれていた。深夜でも、風呂に入れるように温めていてくれる。  しかも、檀家の方も入れるようにと、大浴場になっていた。  直哉と一緒に湯船に浸かっていると、脱衣所から物音がした。誰か入って来ようとしているようだ。  御形の家は、父親と祖父が僧侶をしている関係で、夜遅い帰宅もあった。  気にしないで湯船に浸かっていると、入って来たのは御形 志信(ごぎょう しのぶ)この家の息子だった。御形とは、同じ高校に通っている。 「黒井、何か又事件に首を突っ込んでいるだろう?」  風呂にまで追って来なくても、説明はするつもりだった。
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