109人が本棚に入れています
本棚に追加
「…直哉」
夕食に出てきた直哉が、同じく廊下に立っていた。
「はいはい」
直哉が直ぐに千里眼で、山上を探し初めていた。
「海だね、蓮の祠があっただろう。その先の浜に居る」
直哉が地図を描き説明していた。
「案内して頂けませんか?」
俺は、直哉と目を合わせると、考え込んでしまった。
「この二人、本分は学生です。許可なく連れまわすことはできませんよ。それに、親子でじっくり話す事も大切ではありませんか?」
御形の言葉に、女将が泣き崩れていた。
「息子は、目を輝かせて黒井さんや、雑賀さんが凄いと言っていました。昨日帰ってくると、俯いたままで、また、失敗してしまったと」
やっぱり、俺達のせいなのか。
「場所が分かったのならば、まず、一心に駆けつけることも大切なのではないですか?」
女将は頷くと、丁寧に挨拶をしながら外へと走って行った。
「御形、ちょっとだけ、飛んでくる」
翼は使いたくないが、山上も気になっていた。俺は、とんでもない言霊を使ってしまったのではないか。
『一緒なら怖くない』
山上、もしかして、俺達から離れて怖くなったのか。
「夕食まで残り時間、30分だ」
御形、行くなとは言わない。
「翼、波に濡れたら、また、洗うのを手伝ってくれ」
「考えておく」
迷うよりも、行った方が早い。翼を広げると、夜空へと飛び立った。
飛んでいる気分というのは、一言ならば寒い。でも、空は、信号も無ければ、渋滞もない、従ってバイクよりも速い。
浜辺に降り立つと、人影がずっとこちらを見ていた。空から来たのだから、相当、驚くだろう。
「黒井さんか…」
驚くよりも、がっかりされたのは初めてだった。
「やっぱり、天使は博愛ですよね」
俺は、博愛だった試しはない。どちらかというと、好き嫌いはかなり激しい。
「朝、田中に会って、黒井さんにキスしたと聞きました。もうショックでそれ以上、学校に行けませんでしたよ」
ショックはそれだったの。帰ろうかな、と、翼を広げると、山上がタックルしてきた。
「役に立つ人材になります!自分に、どんな噂があっても、俺、耐えられます。がんばります」
野島が死体で見つかったのだ、噂にはなるだろう。
「それなら、学校に行け」
「明日から、真面目に行きます。だから、見捨てないでください」
最初のコメントを投稿しよう!