第1章

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「…直哉」  夕食に出てきた直哉が、同じく廊下に立っていた。 「はいはい」  直哉が直ぐに千里眼で、山上を探し初めていた。 「海だね、蓮の祠があっただろう。その先の浜に居る」  直哉が地図を描き説明していた。 「案内して頂けませんか?」  俺は、直哉と目を合わせると、考え込んでしまった。 「この二人、本分は学生です。許可なく連れまわすことはできませんよ。それに、親子でじっくり話す事も大切ではありませんか?」  御形の言葉に、女将が泣き崩れていた。 「息子は、目を輝かせて黒井さんや、雑賀さんが凄いと言っていました。昨日帰ってくると、俯いたままで、また、失敗してしまったと」  やっぱり、俺達のせいなのか。 「場所が分かったのならば、まず、一心に駆けつけることも大切なのではないですか?」  女将は頷くと、丁寧に挨拶をしながら外へと走って行った。 「御形、ちょっとだけ、飛んでくる」  翼は使いたくないが、山上も気になっていた。俺は、とんでもない言霊を使ってしまったのではないか。 『一緒なら怖くない』  山上、もしかして、俺達から離れて怖くなったのか。 「夕食まで残り時間、30分だ」  御形、行くなとは言わない。 「翼、波に濡れたら、また、洗うのを手伝ってくれ」 「考えておく」  迷うよりも、行った方が早い。翼を広げると、夜空へと飛び立った。  飛んでいる気分というのは、一言ならば寒い。でも、空は、信号も無ければ、渋滞もない、従ってバイクよりも速い。  浜辺に降り立つと、人影がずっとこちらを見ていた。空から来たのだから、相当、驚くだろう。 「黒井さんか…」  驚くよりも、がっかりされたのは初めてだった。 「やっぱり、天使は博愛ですよね」  俺は、博愛だった試しはない。どちらかというと、好き嫌いはかなり激しい。 「朝、田中に会って、黒井さんにキスしたと聞きました。もうショックでそれ以上、学校に行けませんでしたよ」  ショックはそれだったの。帰ろうかな、と、翼を広げると、山上がタックルしてきた。 「役に立つ人材になります!自分に、どんな噂があっても、俺、耐えられます。がんばります」  野島が死体で見つかったのだ、噂にはなるだろう。 「それなら、学校に行け」 「明日から、真面目に行きます。だから、見捨てないでください」
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