第1章

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 背中に泣き付かれても困る。しかも、俺は夕食には戻らなくてはならないという、タイムリミットを持っていた。 「高校に、無事、入学したら、会いにくるくらいは許す」  高飛車な言い方だが、山上が何度も頷いていた。 「絶対に、会いに行きます!」  残り時間、10分。飛んでも、御形の家までは5分はかかる。 「翼、薔薇?の香りがするのですね」  翼?薔薇? 「もしかして、翼、見えている?」 「見えていますが、隠していましたか?また、俺、やっちゃいましたか?」  俺の翼、案外、色々な人に見えるらしい。これからは、人前では出さないようにしよう。 「ごめん、俺、急いでいるから行くけど。お母さんが迎えに来ているよ」  急いで飛び上がると、再び夜空を飛んで帰る。こんなに長距離を飛んだのは、人間になってからは初めてかもしれない。明日は、筋肉痛になりそうだった。  暗闇に近い山の中に、御形の寺の光が見えてくると、少しほっとした気持ちになった。無駄なライトアップも、今日は許せる。庭に降り立とうとすると、御形が空に両手を伸ばして立っていた。  そんなに頻繁には飛んでいないので、着地位置の感が鈍っている。手の先になんてうまく降りられないぞと、思いつつ、降下した。  うまくスピードが落ちずに、御形に激突するという瞬間、ふわりと体が支えられていた。 「捕まえた」  この手は、天使を捕まえるために進化していた。 「おかえり」 「ただいま」  どんなに暗闇を飛んだとしても、この手に帰りたい。温かくて、優しい手。そして、俺を守る手。 「大好き、御形」  地面に激突しなくて済んで、ほめ言葉を掛けようとして、大好きと言ってしまった。深い意味は無かったのだが、御形が真っ赤になって、手の上から俺を落とした。 「ゆっくり、降ろせ」  御形、真っ赤になったまま固まっていた。 「夕食まで、時間無いぞ」  先に行くぞと言って、やっと、御形が動き出した。 「黒井、反則。突然、告白するなって」  告白のつもりは無かった。走って席に付くと、御形の母親に少し睨まれた。 「それでは、皆さん揃いました。いただきます」  御形の家のルール、夕食は揃って頂く。  夕食後、御形が翼を丁寧にタオルで拭き、再び油脂を塗ってくれた。 「手入れも大変だし。在翼族が滅びそうなのも頷ける」 「滅びそうなの?」
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