第1章

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 毎年、肝試しが行われ、それは一つの地区対抗のゲームでもあった。複雑な地下洞窟を抜け、どのチームが一番早くゴールへ辿り着くのか。勝者には、菓子と飲み物、そして何より先輩からの褒め言葉があった。  複雑な洞窟には、チームごとの暗号が壁に刻まれていた。歴代の先輩の刻んだもので、まず暗号の場所と意味を覚え、どちらに進むかを決定してゆく。  だから、迷わずに進めるのだ。  一つ重要な注意点があり、先輩が危険な場所や行き止まりには、『止まれ』のマークを無数に付けていてくれた。そちらには、絶対に進んではいけない。  この『止まれ』のマークは全チーム共通で、寺社を意味するもの。地図の寺社記号だったり、寺の漢字だったり、祭壇のようなものだったりだ。  危険と書かれていた場合は、先が危険という意味で、進むなというわけではないので、『止まれ』と分けたと説明されていた。だから、有働先生が探したものは、奥ノ院ではなく、『止まれ』の暗号だったのかもしれなかった。  本当の奥ノ院は、海側ではなく山側に、祭りの最中だけ設置される祭壇であった。  生徒は、先生が嫌いで、嘘を付いたのだ。危険な場所へと、言葉で誘導していた。海の手前に祭壇があるのは、海に落ちるから『止まれ』の意味だ。 「俺達のチームも、取り壊しの家から貰った石で出来た祠を、海の洞窟へ設置したことがある。勝者は、そうやって記念に何か残してゆく決まりだった」  でも、本当に有働先生が行方不明になってしまい、当時の中学生の仲間は、皆で口を閉ざした。 「次に、中学生の行方不明があった」  図の家を指差して、蓮が叩く。 「こいつは、有働先生を慕っていた。探してくると言って、行方不明になった」  真冬だった、海から入る場合は濡れてしまう。けれど、寺を起点にして、山側の洞窟に詳しい奴は居なかった。肝試しは、いつも寺から海側の洞窟で行われていた。暗号も、山側に向かうと無くなってしまう。  でも、有働先生が見つからないのは、恐らく山側に向かってしまったためだ。洞窟では、方向感覚が狂う。 「俺達は、先生に嘘を付いていたのがバレて大問題になるのが怖かった。だから、誰も探す事に協力できなかった」
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