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「黒井は、蓮には何でも相談する」
そんな事はないが、蓮とは御形よりも長い付き合いだった。中学時代の蓮は知らないが、蓮が高校生の時に、農家レストラン春日がオープンしたので、もう4年は経過する。
「蓮は、あれで面倒見も良くて、玲二さんが兄貴とすると、姉貴みたいな感じかな…」
蓮が聞いたら怒ると思うが、一番近いものは姉貴だった。
「蓮が聞いたら怒るよ…」
自分の考えを押し通して解決してくれる玲二と、話を聞いてアドバイスをし、どうしょうもなく困ったり弱っていた時だけ、少し手を貸してくれる蓮は、俺の大切な兄弟のような存在には違いない。
「それじゃあ、どちらも大切な兄貴だ」
御形が、そっと背に手を回してくる。振りほどこうかと迷ったが、そのままにした。
御形が遠慮もなく、服の中に手を入れてくる。胸に腹に、指が触れて離れる。
「黒井、好きだ…」
多分、玲二や蓮に対抗しているのだ、御形。対抗するもなく、こんなことさせた相手は、御形以外にはいない。
「御形…」
言葉が、御形の唇に塞がれる。入って来る舌が熱い。歯列をなぞられ、再び舌が絡まる。
御形の背に手を回し、目を閉じると、そこには俺と御形しか居ない世界だ。
「黒井、全部欲しい…」
全部は心も?
「…分かった、全部、御形にあげる…」
目を開けると、御形の目が覗き込んでいた。この御形の瞳に映る自分は、いつも不安そうに見える。
事実俺は、男とは経験がない。そもそも、される側というのに馴染みもない。
「震えないで、黒井…」
震えたのは、服を取られて寒いからだ。言い返そうとして、床に押し倒された。御形が覆いかぶさってくる。
そこに廊下を走る音が聞こえた。一穂が走って来る。
俺は、いつも通りに御形を突き飛ばすと、服を整えた。
「黒井、さっきの台詞は有効だからな。全部貰った。他の奴にはやらせるな」
「はい、はい」
邪魔が入るのはいつものことだ。何だか、このまま進まない気はしている。
「典史兄ちゃん。おやつ一緒に食べよう!」
一穂、いつも、いいタイミングだ。服を直し、御形も普通に座っている状態。
「兄ちゃん、ボクの典史兄ちゃんに悪い事しないでね」
一穂の言葉に、迫力があった。一穂、本当は見えているのではないか。
一穂に手を引かれて居間に行くと、和菓子と茶が置いてあった。珍しく、御形の父も一緒に茶を飲んでいた。
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